映画監督たちは当然のように皆こだわりをもっているが 小津安二郎監督のそれはよくあげられ 中でも有名なのは「小津アングル」と言われるローアングル撮影 その他にも多々あるが 今回は ある一つのこだわりをとりあげてみた

◎小津作品に多く採用の「水影」(みずかげ)に注目! 
「水影」とは陽の光が水面に当たって反射して建物の軒や室内の天井あるいは壁などに”ゆらゆらとゆれる光”となって映るもの (「水影」については 私の広辞苑には”水にうつるかげ”としか載っていないが最近の他の辞書には(1)水面に映る者の姿 また 姿を映している水面 (2)水面の照り返し・・とある) 
実例として下の写真参照下さい
terikaesi1
より引用

terikaesi2
より引用

◎小津監督作品10本の内7本に「水影」あり!
小津氏がいかに「水影」を重要視したかは それが登場するシーンが非常に多いことで分かる 私は以前から小津作品に「水影」登場が多いことに気づいていたのだが 今回このブログを綴るにあたって とりあえずあらためて10本ほど急いで観た結果 「水影」シーン登場作品は・・「東京物語」 「彼岸花」 「秋日和」 「お茶漬けの味」 「早春」 「戸田家の兄妹」 「小早川家の秋」・・しかし今回は観ていない作品もあるので まだ存在すると思われる ちなみに「水影」登場無し作品は「秋刀魚の味」 「晩春」 「東京暮色」(ただし見逃しがあった可能性もあり)

◎「東京物語」では「水影」が4回も登場 
この映画のスタート画面は まず石灯籠一つだけの大写しであるが よく見ると その石灯籠の笠部分の裏側(地面を向いている面)に「水影」が映っているのだ! 「水影」はこの冒頭含めて計4回も登場で これは他の小津作品の中では登場は1~2回であるのに比べると抜群に多く いかに「水影」を重要視している作品かが分かるというもの
この代表的シーンは冒頭のものではないが 右に映っているのが その石灯籠
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↓母親の葬儀後に会食する場面 右側の障子と提灯に「水影」が
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↓同じ会食した料亭の提灯を大写しして「水影」強調
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◎「水影」を映す意図は?
そもそも「水影」現象が現れる条件は 海・湖・池・川・プール・つくばい・あるいは水たまり などの水の存在と無風の晴れた日中で陽の光の入射角と反射角の条件が揃えば現れるのだが これを天候要素に限ってみれば・・「水影」は明るく穏やかな状態の現われであり これを見ると我々の心も穏やかになるもので 小津監督は映画の中での場の雰囲気や登場人物の心理状態を表す一種のメタファーとして使っているのでしょう  この見方からすれば 小津作品の中でも最も暗い内容とされる「東京暮色」には「水影」が使われなかったのもうなづけるというもの!

小津監督が30才のときに出版された谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」はたぶん読んでいるのではないかと思われるが 陰翳を大切にした結果として「水影」の明るさが生き また相互に強調し合う効果も意図しているのだろう また"谷崎が礼賛した和紙"を使った障子や提灯に
「水影」を映したのでもあろう

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この映画の冒頭画面で水影の映った石灯籠の"笠"を強調しているが この映画の主役の一人である笠智衆の苗字も"笠"であることは なにやら符合するような感じがする?