今年5月、「とにかく可視化」という書名の本(新潮新書)が出版された。
その新聞広告には、こうある・・「可視化するだけですべてうまく行く! 延々と続くムダなやり取り、長いだけの空疎な議論、決めても簡単に撤回、動き出しても停滞。多くの企業が抱えるモヤモヤを解決するシンプルかつ超実践的ノウハウ。」
そこで”賢い人の可視こい?例”として思い出すのが・・
◎白洲次郎が描いた「ジープウェイ」図
1946(昭和21)年のこと、新しい日本国憲法の草案内容はGHQによる一方的かつ性急な面が強いために日本政府が松本国務大臣名で作成していた「松本案」の再考を願う内容の書簡を出すことになり、その時点で終戦連絡事務局参与であった白洲が作成してGHQのホイットニー民生局長へ送った。
その際に”日本側の松本案とGHQ案は目的(OBJECT)は同じであり、ただしそこに到達する手順が違って、松本案は日本の国情によって、あたかも山道をジープに乗って行く(JEEP WAY)がごとくであり、GHQ案は(途中の事情などかまわずに)一挙に到達しようとするものである”としてその主張を”まさに可視化“した手書きの図を添えた。「百”文”は一見にしかず」か! これが後に「THE JEEP WAY LETTER」と呼ばれるようになった。
↓白洲が書簡(1946年2月15日付)に添えて描いた図(外務省外交史料館蔵より)
書簡を受けたホイットニー民生局長は、白洲による説明図によって明確にされた日本政府の態度を激しく非難してGHQ案推進方針をより固めることになってしまったが・・
結果は残念だったが、後年に「THE JEEP WAY LETTER」が知られるようになって、現在ではその図をプリントしたTシャツが(白洲夫妻の旧邸で今は資料館になっている)「武相荘」(東京都町田市)※で販売されている。綿100%、価格6600円、サイズ4種類でネット販売あり。
◎南方熊楠の描いた「南方マンダラ」
南方熊楠 (みなかた くまぐす:1867~1941年=明治元年の前年に生まれて太平洋戦争開始年に亡くなった)は、とくに植物学、微生物学、民俗学の分野で活躍(その他、粘菌の研究は有名)したが、世界の科学、宗教、哲学などにも造詣が深かった。それらの行為を支えていたのは抜群の記憶力や9か国語に精通した語学力だった。
もう一つ” 熊楠の思索と行動にとって重要な役割をした”のが・・
土宣法竜(とき ほうりゅう=1854~1922年)という真言宗の高僧であり、慶応義塾で西洋学問を修学してから宗教界に入り、非常に開けた視野と柔軟な思索の人。シカゴでの万国宗教大会に真言宗代表として出席したりロンドンやパリでも仏教関連の仕事をし、最終的に真言宗高野派管長となった。
そのロンドン滞在時(1893=明治26年)に丁度現地で勉学中だった熊楠と出会った。13才年下で当時まだ20代の熊楠ではあったが既に「ネイチャー」誌に論文を発表して高評価を得ていたほどの知性にあふれていたので、二人は共鳴し合い、以後は1916(大正5)年頃までハイブラウな内容の書簡が大量にやりとりされた。
西洋の科学や哲学においては物事の存在理由や現象の原因を追究するには、全体から細分へと分析対象を絞り込みながらその要素を抽出するという方法(従来一般に「還元主義」と呼ばれていたが最近は使われない傾向)がとられていたが、それでは真理をつかむには限界があると熊楠は気づいていたために、それに代わり得る方法を探り始めていた。
そこで熊楠が着目したのが東洋の哲学、宗教であり、中でも曼荼羅(まんだら)に注目。それを知らされた土宣師は”曼荼羅を重用する真言宗の僧侶”でもあるので大いに熊楠を後押しした。
曼荼羅は仏教の世界観を一般民衆でも理解できるようにと可視化したものだが、前述のように” 物事の存在理由や現象の原因”を可視化するのは難しいので、さすがの熊楠も10年を経てやっと一応のカタチを得たのが「南方マンダラ」と称されるもので、”一応”という訳は熊楠はこのマンダラ図を本当は立体を表すものにしたかったから”であり、しかも説明無しではこの図は理解できないから。
"知の巨人"である熊楠が長年考え抜いて導いた結果を可視化したこの「南方マンダラ」そのものと、その生成過程は難解で、浅学菲才の私のおぼろげなる解釈では"この世界の物や事は他との関係において生まれ、存在するものであって、その際の互いの関係の有様は多様(熊楠によれば図中のイ、ロ、ハなどそれぞれは異なる)であることを表している"のだろうと思いますが、詳しい説明内容に興味ある方は書籍「南方マンダラ」(中沢新一 責任編集・解題:河出文庫)に熊楠本人の説明(土宣法竜師宛の多数の書簡文中)と中沢氏の解説が掲載されているので参照下さい。
・・・・・・・・・・・・
「可視化」についての続編はまた後日に・・
・・・・・・・・・・・・・
コメント
コメントする