◎「大賀ハス」の種は千葉県で2千年以上眠っていたとされるが!?
1951(昭和26)年に植物学者の大賀一郎(1883=明治16年~1965=昭和40年)博士が千葉県に在った「東京大学検見川厚生農場(現、東京大学検見川総合運動場)」の地にあった「落合遺跡」の発掘調査をした際に地下の草炭(樹木ではなくアシやヨシなどが水中堆積して炭化したもの)層の下の青土層の中(地表から約5.5m)から3粒のハスの種(ハスの場合は”実”とも言う)が発見された。
博士はこの種は約2千年前のものと判断したが、これを現代に蘇らせて発芽育成をすべく自宅で試みたところ、種3粒の内の1粒だけが蓮根を形成しだしたので、それを根分けして三カ所(伊原茂氏宅、千葉公園、千葉農業試験場)にさらなる育成を1952(昭和27)年4月に委託したところ、3か月後の7月に伊原氏宅のハスが見事に開花した。
この太古のハス開花のニュースは日本のみならず世界中に伝わり、米国のTIME誌にも「世界最古の花、生命の復活」としてカラー写真とともに紹介された。こうして有名になった古代ハスはその後「大賀ハス」と称されるようになった。
◎大賀ハス 本当は3千年前かも?!
実は、この古代ハスの種が在った層のすぐ上の草炭層から丸木舟も出土していたので、その小片を放射性炭素年代測定してもらうべく (この測定法を世界最初に開発した)米国のシカゴ大学へ送った結果、この丸木舟の素材は3075年(プラスマイナス180年)前のものと判明。
(深さ数値は博士のメモでは尺・寸記入だったものをメートル法に変換したもの)
放射性炭素年代測定用のサンプル木片がこの丸木舟の舟体の厚みの内側のものか外側のものかによって年数値に差が出るが、杉材で厚みが5センチと仮定すれば、内側と外側で約30年の差がでるが当時どちら側の木片を使ったかわかりませんが・・
ではこの丸木舟が埋まっていた層は”少なくとも(つまり新しくとも)いつごろから形成されたかを考えてみると・・年代測定値の誤差のマイナス値のほうを採用した上で、この舟に使われた木材は伐採直後のものであるだろうことを前提として、測定値が丸木舟の内側の木片測った結果(つまり古い方)だったとして、これを新しい方に振り、またこの舟が20年使われた後に廃棄されたか沈没したとして、その後”草土”となる植物の沈殿物に埋もれだしたとすると・・
3075-180-30-20=2845(年)・・となって、この丸木舟は新しくとも約2850年前にこの地に在ったということになり・・年代測定誤差を反対にとれば(=古くは)・・3255(年前)となります。
後に大賀ハスと呼ばれるようになったハスの種は丸木舟が存在した層よりさらに下の層に在ったので、丸木舟より古いとは思われるものの、例えば丸木舟と同じ時代に落ちていた種を当時の人が踏んで、より深い下の土の層まで押し込んだものかも知れず、年代は特定できませんが・・
現在でも大賀ハスの説明文には「2千年以上前の古代ハスで弥生時代以前のもの」とされることが多いのですが、”弥生時代は約2300年前~約1900年前”とされるので「大賀ハスは約3千年前の縄文時代後期のもの」とするほうが妥当のような気がします。
◎博士は大賀ハス発見より以前に中国で古いハスを発見していた!
大賀博士がまだ若い頃、中国・大連に在った南満州鉄道中央研究所(通称:満鉄調査部)の植物班主任として勤務時代の1927(昭和2)年に、大連郊外の「普蘭店」という地の泥炭層の中から、約300年前のものと推定されるハスの実を採取して発芽させることに成功。これをもとにした論文により東京帝国大学の博士号を取得している。この経験があったればこそ千葉県の東大関連敷地内の泥炭に似た地層でのハスの種の存在の可能性にかけて発掘作業に(68才にはなっていたが)意欲を燃やしたのでしょう。
◎大賀ハスは日本各地、世界各地へ。あの水御堂にも !
大賀ハスは千葉県で発見されたこともあって、現在では千葉県内の多くの公園の池で観られ、千葉市は「市の花」に指定。「検見川大賀蓮」が千葉県指定天然記念物になり、千葉公園では毎年6月に「大賀ハスまつり」が開催されるほど。しかし今や日本全国各地でも観られ、なんと前回のブログでもふれました安藤忠雄氏設計の「本福寺・水御堂」の池にも大賀ハスが植えられています。
そして今や大賀ハスは世界150ヵ所に根分けされて花を咲かせているそうです。
◎実は大賀ハスの種を最初に発見したのは女子中学生!
大賀博士が千葉市の地で発掘作業をした際にボランティアとして小学生や中学生も参加していた中で、市立花園中学校の生徒・西野真理子さんが(後に大賀ハスと呼ばれる)ハスの種を一粒見つけたのが最初で、その後に周囲から二粒が追加して見つかり計3粒になった。大賀博士が残しているメモにも”第一発見者として西野さんの個人名”を明記している。
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一本の大賀ハスの開花は4日間。見頃は千葉県では6月中旬~下旬。しかもハス全体の性格として午前中にしか開花は観られない・・というわけで千葉県に住む私なのに、残念ながらこの花をまだ観たことがありません。
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