徒然G3(ツレヅレジイサン)日話秘話飛話

兼好法師ならぬ健康欲しい私がつれづれなるままに お伝えしたいこと綴ります。 時には秘話もあり!

    ジャンルは不特定で硬軟織り交ぜながら 皆様に何かお役に立てば幸いです

    2023年07月

    現在、NHKが放映中の連続テレビ小説(朝ドラ)「らんまん」の主人公のモデルとなったのが現在の高知県生まれの植物分類学者の牧野富太郎博士(1862~1957=昭和32年、94才没)。
    dr-makino

    1889(明治22)年に、植物として日本最初の学名「ヤマトグサ」を名付けて以来、日本各地の植物を調べて1500種以上に学名を付けた博士がシーボルトを批判した理由とは・・

    ◎日本固有種のアジサイを欧州に紹介したシーボルトだが・・
    アジサイと名が付く植物の原種はガクアジサイ。これは日本の固有種であり、日本原産。現在多く見られるアジサイ(ホンアジサイ)はガクアジサイを園芸品種化したもので、これが西欧に渡って品種改良(と言うべきなのか?)されて大正時代に日本に逆輸入されたのがセイヨウアジサイ。

    ガクアジサイ
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    幕末に来日したシーボルト(1796~1866)はドイツ人ながら長崎のオランダ商館付きの医者で、日本の医者や医学生に西洋医学を伝授した一方で日本の文化、生物、地理などを西欧に紹介した。(その一環として、当時は国禁だった”日本地図の国外持ち出し”を図ったことが発覚して1829年に国外追放になった「シーボルト事件」は有名)

    晩年のシーボルト
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    シーボルトは日本の植物としてアジサイを紹介するに当たって、学名となるように「Hydrangea otaksa (ヒドランゲア オタクサ) Siebold et Zuccarini」として発表した。 

    ところが、シーボルトより先に別の学者がアジサイに学名「Hydrangea macrophylla(ヒドランゲア マクロフィラ)」をつけていたことが判明したので「ヒドランゲア オタクサ」は学名登録されなかった。

    「オタクサ」という名は、シーボルトが”在日中の妻としていた”楠本滝のことを「オタキサン」と呼んでいたことから付けたというのはよく知られていますが・・

    楠本滝は元々は商家の娘だったが家が没落したためやむなく出島の遊女になっていたところをシーボルトに見染められたもの。

    さて、シーボルトがアジサイ※に「オタクサ」という名をつけた由来を知った牧野富太郎博士は・・
    「植物の名付けを”私して(私的に利用して)”、しかも女郎のお滝の名を用いるとは、大いに花の神聖をけがすものである」というような表現を用いて憤慨していたそうです。

    しかしながら、牧野博士も”苦労をしながら自分を支えてくれた妻「壽衛(すえ)」”に感謝を込めて、新種のササに「スエコザサ」と命名しているから”同じ穴のムジナ”に近いのではないだろうか?

    ※シーボルトが西欧に紹介したのはガクアジアイであったと牧野博士は確認している。

    ◎牧野博士の仕事に欠かせぬ存在だった”画工”たち
    牧野博士の仕事に欠かせなかった植物標本と植物画。
    "博士が植物に対していとおしむように接した"ことを表すかのように、作製した40万点の標本には植物が美しく見えるように、台紙への貼り方にも注意がはらわれていた”

    ↓「クロモジ(芳香がする高級つま楊枝に使われる)」の標本(左から、実、青葉、紅葉)
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    「東京都立大学牧野標本館」(八王子市)収蔵品写真より引用
      当館の全収蔵品50万点の内、牧野博士作製分は16万点

    牧野博士の偉業は、妻や友人など多くの人たちの助力、協力に支えられていたことはよく語られています
    が、特に植物画の作成には専門の”画工”の助けが必要だった。

    元々、牧野博士は自身で植物図を1700点以上を描いていましたが、それは非常に緻密で正確な図であり、そのために”ネズミの毛を使った独自考案の筆”を駆使して”1ミリ幅の間に7本の線”を描いていました。

    ↓牧野博士自筆の植物画 (「和楽web」より引用)
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    そんな調子なので当然、大量の植物画を描くには時間的に無理ということで、博士同様の絵が描ける職人である”画工”たちに分担依頼しましたが、博士はこの人たちの存在とその仕事に感謝していた。

    例えば、『1940(昭和15)年に出版された「牧野日本植物図鑑」(北隆館)の序文には、三人の画工である水島南平、山田壽雄(としお)、木本幸之助への謝辞が記されている』 (『』内は東京大学総合研究博物館 研究員 藏田愛子氏による)

    この三人の中でも博士が最も信頼していたと言われる画工が山田壽雄(としお)氏。氏は牧野博士からだけでなく他の有力者からの依頼も受けていた。そのため氏の描いた原画が多く残っている。

    ↓山田壽雄の植物画(「山田壽雄が描く園芸植物」展=2018年に練馬区立牧野記念庭園記念館で開催
    の案内パンフより)
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    ↑図内の左上から、園芸種名「鶉ノ羽」/左下「センリョウ」/右上「スカシユリの一品種」/右下「ハクモクレンの一品種」下図は「錦重 羽衣」・・これらの図は園芸家の石井勇義氏の依頼により山田壽雄が描いたもの
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    ◎初期の牧野を手助けした池野成一郎 / 添い尽くした妻の壽衛
    牧野博士が東京大学(後の東京帝国大学)に出入りし始めた頃、東京大学生だった池野成一郎は顕微鏡使用の植物観察や英語、ラテン語の読み書きを手助けしていた。また牧野が一度東京大学を締め出された後も復帰を後押しし成功させた。

    博士の妻の壽衛(すえ)は貧乏暮らしの中でも夫を支え続け、牧野博士の終の棲家となって最後の約30年を過ごした(現在の東京都練馬区東大泉の)庭付きの家も、彼女が「待合茶屋」を経営して産み出した資金で手に入れられたものだった。現在その旧居は「練馬区立 牧野記念庭園記念館」となっている。

    ↓妻 壽衛 
    (個人蔵の写真を朝日新聞が掲載したもの)
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    余録
    シーボルトと楠本滝の間に生まれ、日本で初の西洋式出産医学を学んだ医師となった楠本イネを主人公にして、民放(TBS系)の連続テレビドラマ「オランダおいね」がイネ役を丘みつ子、滝役を馬渕晴子で、1970年に半年間放映されましたが、丁度この期間は大阪での万博開催と重なっていました。
    当時、会社員だった私にとっては昼休みに当たる時間帯に放映されていたドラマでしたが、殆ど観られませんでした。
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    NHKの朝ドラ「らんまん」好評を反映している一つの例が、旅行会社の”四国巡り”ツアーにおいて、定番の桂浜・坂本龍馬像、金刀比羅宮、大歩危・小歩危、祖谷のかずら橋、道後温泉、四万十川などに加えて「牧野富太郎記念館」「県立牧野植物園」(高知市)が登場したことです。

    ↓最近の旅行会社の新聞広告
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    蛇足ながら他にも、四国巡り観光において近年追加されてきたのが「大塚国際美術館」(徳島県鳴門市)で、世界の名画1000点を特殊技術で陶板に焼き付けて原寸大に再現したものが観られるという人気スポットです。
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    今は梅雨 ! アジサイの花が我が家に少々、近所のお宅に沢山咲いています。

    ↓近所のお宅の垣根沿いのアジサイ
    (下の8枚の写真は全て1軒のお宅のもの)
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    ◎アジサイは食べると中毒の危険性があるのだが・・
    数年前の梅雨の合間のある日、ある店で食事をした際、最初に出された小鉢の横にアジサイの花が添えられていた。(↓下写真赤丸内)
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    それは一見、風情があるものの、私は”これは やめたほうがいい”と思った・・その理由は・・

    アジサイは、花、葉、茎などのどの部分を口にしても、中毒(嘔吐、悪寒、顔面紅潮)の危険性がある”からで、なぜ「危険性がある」という表現を使って”確定的表現”を避けたかと言うと、その有毒成分として青酸配糖体やアルカロイドというものが検出されることがあるものの、検出されないこともあり、それが種類や土地によるものかも特定できないのが現状だからです。

    しかし実際に中毒は発生していて・・厚生労働省の発表によれば・・
    2008年に大阪市の居酒屋で出汁巻き卵の下に敷かれていたアジサイの葉を食べた人が中毒発症。
    同年、茨城県つくば市の飲食店でもアジサイの葉を食べた8人が中毒発症。

    前述の”私の場合”は添えられていた花はアジサイですが、葉っぱはナンテンとイタヤカエデでしたから問題は無かったものの、アジサイの葉は大葉(青しそ)と同様のつもりで、また花は近年流行のエディブルフラワー(食用花)のつもりで食べてしまわれる危険性があります。

    ということで、”疑わしきは使うべきではない”アジサイです!

    ◎「甘茶」でも中毒が・・
    昔から4月8日のお釈迦様の誕生日には、お釈迦様の像に甘茶をかけ流すと功徳を得られるとされ、また「甘茶」を飲む習慣がありますが、この甘茶の原料は「アマチャ」(オオアマチャ、コアマチャ、アマギアマチャなどの種類がある)であり、ヤマアジサイの変種だそうで、一見するとガクアジサイ(冒頭写真8枚の内最後の2枚参照)と見分けがつかないが、ガクアジサイと比べると全体に小ぶりで、葉の厚みがやや薄く、艶が無いそうです。

    ↓アマチャの花 (ガクアジサイと同様に、花は中心の丸い粒状部分/右は咲終わりに近く花や茎が薄紅色になったもの)
    (写真は「庭木図鑑ウェブ版」より引用)
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    アマチャの生の葉の状態では甘味は無く、葉を乾燥させてから発酵させると甘味が発生するので、これを昔から”食品の甘味料”としたり、煎じて甘茶にして飲みます。

    しかし、実際に”甘茶でも中毒”が発生しています。

    厚生労働省の発表によれば・・
    2009年に岐阜県岐南市で甘茶飲んだ保育園児119人の内28人が嘔吐などの中毒発症。
    2010年に神奈川県南足柄市の小学校で甘茶飲んだ1年生の内の45人が嘔吐などの中毒発症。

    伝統がある甘茶にしては、原料のアマチャがやはりアジサイに近い種類のためなのか、どうやら注意が必要なようで、飲む場合は浅い煎じ方にして、特に子供にはごく薄い甘茶にするか避けるべきでしょう。

    実は私が”将来お世話になる予定?のお寺”は別名があって「あま茶寺」とも称していて甘茶が飲めるとされていますが、前述のような理由で”大人の私でも”遠慮することにした次第です。
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    なお、アジサイは処理の仕方によっては、
    解熱や咳止め薬(漢方薬)になり、中国原産の「常山アジサイ」は"抗マラリア薬"になっています。アジサイは"毒にも薬にもなる"という点では他の漢方薬の原料となる植物と同様ですね。
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