徒然G3(ツレヅレジイサン)日話秘話飛話

兼好法師ならぬ健康欲しい私がつれづれなるままに お伝えしたいこと綴ります。 時には秘話もあり!

    ジャンルは不特定で硬軟織り交ぜながら 皆様に何かお役に立てば幸いです

    2023年03月


    ※前回の”円周率に関するちょっとした間違い情報”に続いて今回はトランジスタテレビに関してです。

    今や、わざわざ「トランジスタを使用したテレビ」なんてメーカーは言いませんが、世の中にテレビが登場してしばらくは、その中身に真空管が使われていたところに、今から60余年前、その真空管に代わってトランジスタというものが使われだしました。その結果、テレビは一気に小型・軽量・省電力で熱もあまり出ないものになりました。

    そのトランジスタ化したテレビの登場にかかわるちょっとした誤報を、ご紹介します。

    ◎某「デザイン評論家」氏の間違い
    氏は30冊以上の著作物がありますが、昭和60年代末頃に出版されたある本の中で、近代デザインの流れを紹介している分部があり、事例の一つとして「最初のトランジスタテレビ」をとりあげて、その写真も添えているのですが、これが間違っているのです!

    何が間違っているのか・・それは掲載写真がソニーの「マイクロテレビTV5-303」型のものだったからで、このテレビはソニーのトランジスタテレビとしては2番目のもので発売は1962(昭和37)年。
    ソニーのトランジスタテレビ第2弾TV5-303
    tv5-303

    最初の機種はそれより2年前の1960(昭和35)年に登場した「TV8-301」だったのです。
    寸法:縦18、巾20、奥行21.5センチ/重量6キログラム   
    ソニー初のトランジスタテレビTV8-301 
    tv8-301
    ・・というわけで、著名な評論家の著作本ゆえに、これを信じた人が多いでしょうが、その後何らかの方法で訂正されたのでしょうか?

    ※↓当時使われていた”ソニーのトランジスタの形状”
    sound-tenji-b (5)
    右から2番目の最小のもので黒い本体部の直径5.5ミリ、高さ8.6ミリ

    さて、ここで初期のトランジスタテレビについては誤解をまねく状況があったので、結果として誤報が生まれたことなどを紹介しましょう。

    ◎世界初のトランジスタテレビは「モトローラ」社が発売
    発売は1958年。「モトローラ」社は米国の電気メーカーで現在はレノボ傘下になってスマホを製造していますが、昔はテレビやトランシーバ、そして世界初の携帯電話を作り出した企業。ついでながら、昨年まで私のパソコンへつないでいたルーターもモトローラ製でした。残念ながらその世界初のトランジスタテレビの姿や詳細が私には見つかりません。

    ◎世界で2番目のトランジスタテレビは「フィルコ」社が発売
    発売は1959年。「フィルコ」社は自動車のFORDの子会社としての電気メーカーだったが、現在は英国のブリタニア社に買収されてスマホなどを生産している。この会社のトランジスタテレビ「H2010」は当時の日本でも注目されて、電気・電子関係の雑誌にはその詳細仕様とともに回路図まで紹介されていた。(回路図に興味ある方は、当編の後部に掲載しましたのでご覧ください)

    画面方式はブラウン管を本体内で縦に配置して、天を向いている2インチ画面をミラー(マジックミラー使用という説明もある)反射させると同時に拡大させて前面から見えるようにしたもの。

    寸法:縦42、巾21、奥行15センチ/重量:7キログラム/全面レザー張り

    ↓ PHILCO H2010 ①左はミラーの様子がわかるもの、②真ん中はレザー張りがわかる、③右は実際の画像が見える状態
    philco-tv
    引用元:①「ラジオ少年の博物館」のブログ、②ヤフオク出品物、③「真空管テレビ工房」のHP)

    ◎「直視型」トランジスタテレビではソニーが世界初
    「直視型」とは、ブラウン管の画面が直接見られる、いわば一般的なものを言い、先述のフィルコ社のトランジスタテレビのようにミラーを使った反射映像を見るタイプに対する形式。

    それゆえに、(ネット上で散見されるような)ソニーのTV8-301型を単に「世界初のトランジスタテレビ」とする言は正確ではないことになる。ソニー自身も「直視型として世界最初」と表現している。

    ◎発売時に世界最小・最軽量だったソニーTV5-303型
    ソニーのTV5-303型の寸法は、縦11、巾19.4、奥行き18.6センチ/重量3.7キログラム。
    発売の1962年時点では世界最小・最軽量を誇った。

    ひょっとすると前出の評論家氏は”「世界最小」を「せかいさいしょ」と聞き間違えていた”のかもしれません。

    ◎初期のトランジスタテレビは真空管も使われていた
    「トランジスタテレビ」と称していたが、初期には日米のメーカーは例外なく真空管も混ぜて使っていて、今風に言えば「ハイブリッド」だった。ブラウン管も真空管の一種であるがこれは別として、当時はテレビ内部の”高圧電流の整流”用には2本または3本の真空管を使わざるをえなかった。(この稿の最後部に掲載の回路図参照ください) 後年、大電力用半導体の開発や回路設計の改良などで真空管は使われなくなりました。

    ・・というわけで、「オールトランジスタテレビ」という表現も昔はあったが、今なら誇大広告とされかねないので使われないでしょう。

    SONY CORPORATION OF AMERICAも、広告文の中で「ALL-TRANSISTORIZED」(全てトランジスタ化した)と表現してしまっていた。(下図の左側英文)
    sony-usa-cm
    (図は「廣田恵介」氏のツイッターより引用)


    余禄(1)「石」の呼称は「トランジスタ」か「トランジスター」か?
    トランジスタは日本では「石(いし/せき)」とも呼ばれ、例えばトランジスタを6個使ったラジオは「6石(せき)トランジスタラジオ」と称した。ソニーのTV5-303型テレビは25石を使っていた。

    トランジスタは日本に登場した当初からは「トランジスター」と語尾を延ばした表記がされていたが、その後(私は時期を把握できていないが)、「外来語をカタカナにした場合に3音以上になり、しかも語尾が延びる単語は、語尾の長音符号は省略する」という決まりができて、1960年台前半頃まではまだ「トランジスタ」と「トランジスター」の表記が併存していたものの、さらにその後は「トランジスタ」呼称のみとなった。
    しかし、2008年にJISの改定によって長音符合を付けた表記も認められたそうです。

    余禄(2)フィルコ社のユニークな真空管式テレビ
    フィルコ社はブラウン管部を独立させたユニークなデザインの機種をいくつか発売し、下の写真の他に四本脚を備えたものもあった。これらのテレビは当時の日本でも盛んに紹介されていた。
    PHILCOのユニークテレビ(「究極映像研究所」のブログより引用)
    philco-tube-tv

    余禄(3)ソニーTV5-303発売直後の電気雑誌グラビア記事
    (雑誌「電波技術」1962年6月号)
    sound-tenji-b (2)

    よく見るとテレビ画面のはめ込み合成と思われる写真には”プロ野球のジャイアンツの大スター背番号3の長嶋茂雄”選手の姿。(顔を見なくても私の年代ならこの姿だけで判断できる) 発売当時イコール長嶋選手活躍時代だったことがわかる。
    5-303nagasima

    そして下部の帯状広告には”テレビキット”の広告があり、これも当時はまだ”テレビはメーカー製品を買うよりも自分で製作する方が安い”時代だったこともわかる。
    tv-kit

    余禄(4)Appleのスマホは160億石?
    現在のアップルのスマホ「iPhone14Pro」にはトランジスタが約160億個使われているそうで、かつてのソニーのテレビ5-303は25個だったから、実に6億4千万倍にもなる!

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    以下は各社の初期のトランジスタテレビの回路図の紹介なので、ご興味無い方はスルーして下さい

    余禄(5)各社初期のトランジスタテレビ回路図
    昔はテレビ、ラジオ、アンプなどのメーカーは自社製品の回路図を公開していたので、電気関係雑誌社は出版月刊誌の中で回路図をよく掲載していたし、「○○回路集」の本も出版していた。

    《フィルコ「H2010」回路図》(クリックで拡大)
    回路図の中で”右下で縦に二つ並んでいる丸型の記号”が真空管。(つまり真空管は2本)
    (「ラジオ少年の博物館」のブログより引用)
    philco-circuit

    (以下、3件とも「実用トランジスター回路集」(誠分堂新光社「無線と実験」昭和38年6月号臨時増刊より)

    《ソニー「TV5-303」回路図》 (クリックで拡大)
    5-303
    上図右下部拡大図:真空管3本の記号(左の丸中に矢印あるのがトランジスタ)
    5-303tube3

    《ナショナル「T9-21R」回路図》(クリックで拡大)(真空管は3本)
    national

    《サンヨー「8-P3」回路図》(クリックで拡大)(真空管は2本)
    sanyo

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    3月14日は”3.14”の「円周率の日」なのだそうで、意図したわけでもなくたまたま今回のテーマにつながりました。

    世の中に存在する情報の中には、有益であるはずが、意図せずに有害または無益なものになっているケースが少なからずあります。この種の間違い情報の例として、「円周率」関連と「トランジスタテレビ」関連を主にとりあげて綴り始めたら、「円周率」関連だけで文章量が大きくなってしまったので、「トランジスタテレビ」関連は次回にまわします。・・まあ、実害は殆ど無いだろうから、どうでもよいような事ですが、間違いは正しておくべきでしょう。

    古くはアルキメデスが求めようとした円周率も、現代はコンピュータを使って昨2022年には「岩尾エマはるか」氏が遂に100兆桁の計算に成功しました。
    arukimedesu
    (「マテマティカ」のサイトより引用) ※小数になおすと「3.1408…<円周率<3.1428…」

    コンピュータによる計算結果(数字)はそのまま電子的に記録され、その数字を何らかの媒体を使って”間違いはなくそのまま”表示できる現代ですが、昔は”手計算”だったり、計算結果を発表する際に”手作業による数字表記”なので、間違いが少なからず発生していて、その例が・・

    計算間違い
    円周率を語る際によく出る名前がウイリアム・シャンクスという英国のアマチュア数学者(1812※~1882年)で、趣味の一つとして円周率の計算をしていて1873年に707桁まで求めて発表した。

    ところが、計算途中にミスがあったために小数点下527桁までは正しいことが彼の死後に判明して
    528桁以下は徒労の産物となってしまった。 (※1812年はナポレオンがロシアの冬将軍に負けた年)

    ◎数字の表記間違い 
    (イ) 百科事典での間違い
    昔、「世界大百科事典」(平凡社)の円周率の項目の中で100桁の数字が掲載されていたが、その内の数字1字が間違っていた。(記憶薄れているが小数点下70~95桁の間の1字)

    それは私が中学生の時に学校の図書館の同書(発行年月日は記憶していない)の中で見つけた。当時私が円周率を115桁まで記憶していたために気が付いたもので、権威ある百科事典のことだから当然「私の方が記憶間違いか?」と疑ったものの、私の数字暗記の元ネタとなっていた「科学読売」(当時、「科学朝日」と双璧の雑誌)に掲載の”手書きの数字1035桁(だったか?)”で確認したが私は間違っていない。

    しかしその元ネタが間違っているかも知れないと思い、しばらく他の”円周率の表記例”を探していたところ、1987(昭和62)年3月12日、日本電気(NEC)が同社製のスーパーコンピュータで35時間かけて算出した1億3355万4千桁という当時世界最高記録の数字を新聞の紙面1ページをほぼ使って掲載したので、「これはコンピュータの計算結果をそのままプリントアウトしたものだろうから信用できる」と考えたので確認したところ私の記憶していた数字の方が合っていた。‥その後に平凡社の百科事典は訂正したのだろうか?私は確認していないが・・

    (ロ) インターネット閲覧ページ上での間違い
    現在、ネット上には多数の”円周率1000桁や500桁”の数字表が載っているので、全てを見られないのですが、少なくとも3件のページで互いに数字が相違する部分があります。

    私は現在、一応250桁まで覚えているので、その範囲でしか分かりませんが、3件とも小数点下150~250桁の間の2~3個の数字が”同じではない”のです。

    そこで困る(という人はあまりいないか?)のは、“どれが正しいのか?”または”どれも正しくないのか?”ということ。

    これらの内で「トラスト ミー(trust me)=私を信用してよ」と(昔、鳩山由紀夫首相がオバマ大統領に向けて放った言葉としても思い出される)宣言できるものがあればよいのですが・・

    そうなると、信頼できそうなのは”コンピュータで円周率計算した結果をストレートに表記したもの”であり、最近は個人で計算した結果をネット上で発表している例(http://www.suguru.jp/learn/pi.html )もありますが・・↓
    ensyuritu

    やはり、大手企業(パソコンメーカーなど)が“例えば円周率1万桁表示ページ”を常時公開する、あるいは現在JIS(日本工業規格)で”分野によっては円周率を「3.1416」として適用する指定や小数点以下31桁までの円周率を適用する指定などがあるようですが、これも一つ基本データとしてやはり例えば円周率1万桁表示をするというようなオーソライズされた正しい数値(と言っても円周率は無理数なので近似値ですが)を提示してくれると良いのでしょう。

    ・・と言ったものの、発信元が不明だが、パソコンが出した円周率の数字を限りないように流し続けるサイトがあるというので閲覧してみたら確かにありました。最初の250桁を見たら間違い数字が無いので、以降も間違いないとは思われますが、いったい何桁まで表示するのか不明です。

    円周率数字垂れ流しサイト

    ◎「ゆとり教育で円周率は3と教える」という情報の間違い
    2002年度から実施された”小学校の学習指導要領”の算数分野での指示を間違って解釈した人たちがいて、その人たちによって「小学校ではこれから円周率は3と教えることになった」という話が世間に広まり、私もつい最近までその誤報を信じていた一人。

    その誤報の原因は・・新しい学習指導要領では小数乗算の桁数制限の規定変更をしたために、手計算では” 円周率を3として”計算せざるをえないことになったことと、「目的に応じて3を用いて処理」という指示もあったために生じた誤解。これによって「ゆとり教育」批判の材料にもなった。

    しかしこの誤解には影響されずに実際の教育現場では” 円周率は3.14“として教えられているそうです。

    (余談1)暗記方法
    ※円周率の暗記では11万桁を誇る原口證(あきら)氏や1万5151桁に達した友寄英哲 氏がいて、友寄氏はソニーの社員時代からどんどん記録をのばして発表していたので有名だった。

    一時は両氏とも世界一だったこともあります。この二人は”数字をそのままは暗記しない方法”で記録をつくっていますが、その方法とは”自分で壮大な物語を作って、そこに登場するモノ・コトを語呂合わせして数字にしたものを記憶していくもので、そこには単に記憶力だけではなく物語の創造力が発揮される点が素晴らしい。

    元コメディアンで現在は俳優の伊東四郎氏も85才にして円周率1000桁を記憶しているそうで、やはり暗記法は語呂合わせ式。俳優として台詞覚えのための脳力維持の必要から努力しているとのこと。

    ”同じようにそのまま暗記でないカタチには”元素周期律表”の語呂合わせ式の「水兵リーベ僕らの船・・」(水兵離別バックの船・・)その他があります。

    しかし、”数字や言葉の羅列”をそのまま暗記するカタチもあり、私自身は”数字そのまま暗記”のカタチで円周率250桁を覚えていますが、これは”数字や単語を連続させてただひたすら暗唱することをくりかえしておぼえてしまう単純な方法”で、決して難しいことではありません。

    なぜならば”お坊さんではない一般人でも「般若心経」(はんにゃしんぎょう)の漢字262文字を暗唱する人は少なくないことや、昔の人は「歴代天皇」を神武(じんむ)、綏靖(すいぜい)、安寧(あんねい)、・・と124代の昭和天皇まで、漢字にして276文字を暗記させられていた人も多く、大正生まれだった私の母もその一人。

    (余談2)般若心経の暗唱を断念した私!
    「色即是空、空即是色」という有名な(しかし私にはよくわからない)言葉が含まれている般若心経を暗唱できるようになろうと思い立ったきっかけは、私が昔 兵庫県に住んでいた際に、同県に在る「西国三十三カ所」の一つの「法華山 一乗寺」に参った際に購入した扇子を思い出したからで、その扇子には「般若心経」の漢字がふりがな付きで記されているもので、これを使ってお経を覚えようと考えた。

    「般若心経」扇子
    sensu (2)

    ↓「般若心経」(部分拡大)
    sensu-up (2)

    ちょうど季節は夏だったので、通勤時に駅のホームで電車待ちをしながら、この扇子で"少しあおいでは手を止めて文字を記憶する"を繰り返すことを実行し始めたものの、なかなか覚えられず結局この試みは夏の終わりとともに潰えてしまった。時に私は60才近くになっていた。心の中で、脳力と気力の双方の低下のためと言い訳する自分が情けなかった!・・・というわけで、若い頃に覚えた円周率の数字も、もうこれ以上は増やせない私であります。
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    次回は「トランジスタテレビに関する間違い情報?! 」です。
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