前回にとりあげた”世界初のジェット旅客機「コメット」の空中分解とリベットの関係”に続いて今回は・・
◎タイタニック号
近年、映画にもなったり(※1)して有名なこの英国の大型豪華客船 (※2)が1912年(※3)4月10日、初航海(※4)として英国のサウザンプトンから米国ニューヨークを目指して出航したが、4月14日の夜11時40分に北大西洋上で氷山に船体右側面下部を接触させて、そこから海水が流入し、2時間40分後の4月15日午前2時20分に沈没して1514人が犠牲(生存者は710人)になった。(※5)
近年、映画にもなったり(※1)して有名なこの英国の大型豪華客船 (※2)が1912年(※3)4月10日、初航海(※4)として英国のサウザンプトンから米国ニューヨークを目指して出航したが、4月14日の夜11時40分に北大西洋上で氷山に船体右側面下部を接触させて、そこから海水が流入し、2時間40分後の4月15日午前2時20分に沈没して1514人が犠牲(生存者は710人)になった。(※5)
※1:かつてナチスもネガティブプロパガンダ用にタイタニック映画を製作した。
※2:タイタニック号の全長は269mで後の日本の戦艦大和の263mより6m長い
※3:日本はこの1912年の7月29日までは明治45年、30日から大正元年
※4:「初航海」は従来の「処女航海」という今の時代にそぐわない呼称の代わりとした
※5:犠牲者、生存者の数は諸説あり数人の差がある
この海難事故の最大原因は”船が氷山に接触したこと”ですが、”その氷山接触を招いた誘因”と”事故を大きくして犠牲者を増やしてしまった原因”が多く指摘されています。
その後者に当たる原因の一つが”リベット”。それ以外の誘因や原因についての記述は長くなるので別の機会にします。
◎船体の鉄板接合用のリベットがもろかった!
船体に使われた鋼板は約2千枚。その厚さ2.5cmの鋼鉄板どうしを太さ2.5cmのリベット約300万個で接合して造られた。
使用されたリベットの多くは機械で打ち込まれた。
しかし、船体前方の機械が使えない部位は人間による手作業でリベットが打たれた。後に氷山に接触した箇所はこの手作業部位が含まれるとされる。
この手作業用のリベットは現場で赤熱されて穴に差し込まれ、それをハンマーで打ってかしめるものだが、そのためにこのリベットの素材には「錬鉄(れんてつ)」が使われて、これは鋼鉄などより炭素含有量が少なく比較的には軟らかいので強度を増すために「スラグ」を混入させていた。
※鉄を炭素含有量の多い順に並べると・・鋳鉄>鋼鉄>軟鉄>錬鉄・・炭素量が多いほど硬くなるがもろくなる。
「スラグ」は鉄など金属を製錬する際に出るカスであり、製鉄の場合では副原料として加える石灰石が” 主原料の鉄鉱石に含まれるシリカ(二酸化ケイ素=SiO2)やアルミナ(Al2O3)などの不純物”をとり込んだ状態の物質がカスでありスラグである。つまりスラグにはこれら不純物と石灰石の成分である酸化カルシウムが合体したもの。
現代の製鉄でも発生するスラグは、セメント材料に混合、コンクリートの骨材(砂利や砕石)の一部として混合、道路のアスファルトに混入、地盤改良材などに使われている。
錬鉄に混入するスラグは適量で効果を発揮するものの、多すぎると逆に錬鉄はもろくなるが、タイタニック号のリベットの錬鉄にはスラグが多すぎてもろかったことが近年になって科学的に確認された。
実験として、厚み2.5cmの鋼鉄板2枚を太さ2.5cmの”スラグを混入した錬鉄製リベット”で接合したものに、”氷山に接触した際の衝撃の大きさである“少なくとも1平方インチあたり1万4千ポンド(2.54X2.54cmの面積あたり約6.36トン)”を想定して力(ちから)”を加えた実験では、1平方インチあたり1万ポンド(2.54X2.54cmの面積あたり4.54トン)以下の力でリベットの頭が裂断してしまった。
しかも、電子顕微鏡で見るとタイタニックの実際のリベットの材質のほうが”実験で裂断したリベット”よりもスラグ含有量が多かったことも分かった。
これによって、タイタニック号のリベットは氷山と接触した際に耐えられないもろさであったことが判明した。
◎当時の鉄材は低温劣化した!
当時に使われていた鉄材は摂氏0度くらいの低温になるともろくなるものだった。これは難しい表現では・・”脆性(ぜいせい)破壊”しやすくなる・・となる。事故現場の氷山が浮かぶような海水温では船体の鋼板もリベットももろい状態だったことになる。先述のリベットの耐性実験は低温下で行ったらもっと悪い結果がでたのであろう。
この”鉄材の低温での脆性破壊”現象が認識されるようになったのは、その後30年ほど経って起きた一連の「リバティ船事故」原因解析結果からだった。「リバティ船」とは第二次大戦時に米国が欧州を支援するための物資を運ぶ輸送船として大量生産された船の総称で約2710隻造られた。それらの造船における鋼板接合には従来のリベットによらずに溶接方法がとられたが、その溶接個所が原因とされる船体破壊事故が大小あわせて数百件も発生した。分析の結果、溶接技術不良もあったが、溶接棒の組成自体の低温での脆弱破壊性が発見され、鋼板どうしのつなぎ部分が弱かったことが判明したからであった。
ただし、現在では”低温での脆性破壊”が起きない鉄材が開発され、ついには"摂氏60度~マイナス60度の間で、むしろ低温になるほど、衝撃吸収エネルギーが上昇して強度が6倍に増加して破壊しにくくなる鉄材"を日本の独立行政法人 物質・材料研究機構が開発している。
ただし、現在では”低温での脆性破壊”が起きない鉄材が開発され、ついには"摂氏60度~マイナス60度の間で、むしろ低温になるほど、衝撃吸収エネルギーが上昇して強度が6倍に増加して破壊しにくくなる鉄材"を日本の独立行政法人 物質・材料研究機構が開発している。
◎船体損壊箇所と海水流入状況
タイタニック号は深さ3千メートル※の海底に沈んだため、当時は実際の損傷個所を調べることなどできないため、「船底に90メートルの長さの穴があいた」などという見解も出たりした。
※水深の正確な数字は3650メートルともいわれるが、これは365(日)のちょうど10倍。
※水深の正確な数字は3650メートルともいわれるが、これは365(日)のちょうど10倍。
しかし、1985年に海底のタイタニック号が見つかって以降、幾多の有人、無人の調査装置での観察やソナー検査によれば、船体に大きな穴は存在せず、ただ船体前部の右舷側面に1.1~1.2平方メートルほどの小さな穴があり、それも鋼板が破れたのではなく、リベットの頭が裂断して接合していた鋼板どうしが離れて折れ曲がったためにできた穴とみられている。
かくして2時間40分かけて流入した大量の海水によってタイタニック号は沈没した。
◎船とともに沈んだ楽隊が最後まで奏でた讃美歌
私がタイタニック号を知ったのは今から約70年前、弟が学校の先生から聞いた話として「昔、タイタニックという大きな船が氷山にぶつかって(当時は接触という言葉は使われなかった)沈没する時に、船の楽隊の人たちは最後まで讃美歌を演奏しながら、船と一緒に沈んでいったんだって!」・・と教えてくれたからでした。今回その讃美歌の曲名がわかりました・・それは「主よ みもとに近づかん」。
なるほど、この曲ならば心を落ち着かせて覚悟はできたのでしょう。
なるほど、この曲ならば心を落ち着かせて覚悟はできたのでしょう。
合掌
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冒頭にも記しましたが、タイタニック号沈没に関しての今回の”リベット関連”以外の誘因や原因についてはまた別の機会に綴ります。
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