◎「光害」を意識し始めたきっかけ
私が”光による害“というものを強く意識させられたのは、1988(昭和63)年に、ある業界の視察団の一員としてオーストラリアの東岸のゴールドコースト沿いの新興リゾートタウンである「サンクチュアリー・コーヴ」(コーヴ=COVE=入り江)という街を訪ねた際に、この街のはずれに住んでいるという人が・・
「最近は街の繁盛で、夜間に街の中心部からの明かりが、住宅地の夜の暗さを邪魔するようになって困っている」というようなことを言ったのを聞いて、“夜の暗さにも価値がある”ことを気づかされたゆえに”夜間の人工の光が害を及ぼす側面がある”ことを”強感”したから。
ご存知のように、「サンクチュアリー」と言うと”鳥獣保護区”と訳されて、特に”小鳥のために餌や水を与える場”として「バード・サンクチュアリー」として語られることが多いのですが、他にも”神聖な場所” “安全な避難場所” “逃げ隠れできる場所” などの意味があり、ある英和辞書にはこれらを総括したような意味として”安らぎの場所”としているのは”言い得て名訳”。
まさに「サンクチュアリー・コーヴ」という名のこの街は”人も動物も安らげる”ことを目指したのでしょうが、夜の(文字通り)”不自然”な光がこれを妨げているのだった。
当時、私は「光害」という言葉が既にあったのかどうかを知らなかったのですが、その10年後の1998年には日本の環境庁(当時)が「光害対策ガイドライン」を策定しています。
◎実際の光害風景と宇宙から見た地上の夜間光景
実は里山に近い環境に在る私の自宅近所にもナイタープレイができるゴルフ場が出現して、そこのコース照明が夜空の一部までも明るく照らす状態で、それはやはり不快です。(ここの夜のスカイはフカイ!)
千葉県・千葉市緑区の”夜間に紫色に光る空”が「気味が悪い」として昨年2020年11月に、あるツイッターに写真付きで投稿されて話題になりました。↓ その現象の発生源は”プチトマト栽培用ハウスのLED照明光”だった。
↑「きみちゃん ステッカー屋さん @Kimichan398」より引用
↑余談ですが、北緯38度線を境にして北朝鮮には光が殆ど無い。この写真には無いが、台湾は中国大陸に対した西側沿岸一帯のみが明るい。また世界の紛争地帯(シリアなど)も暗い。 (写真はGoogle Earth 夜の地球より)
↓(余禄)飛行機から観た東京湾を囲む夜景。手前が千葉県、向こうが東京や横浜。湾上中央にアクアラインの海上部分が細く伸びている
(この写真は、航空会社の国際線のあるパイロットが、普段に操縦桿を握っている際には意識しなかった東京とその近辺の夜景を、非番時に乗客としてあらためて観るとそのすばらしさ(?)は「おそらく世界一」と感動して機内から撮影してNHKに投稿したもの)
(この写真は、航空会社の国際線のあるパイロットが、普段に操縦桿を握っている際には意識しなかった東京とその近辺の夜景を、非番時に乗客としてあらためて観るとそのすばらしさ(?)は「おそらく世界一」と感動して機内から撮影してNHKに投稿したもの)
◎「光害」がもたらす結果
① 生態系に悪影響
●生殖不全
私が実際に出会った現象は“明るい夜が蛍を絶やしてしまった”こと。
私の家の近所の田んぼで昔は夏に多くの蛍の光が見られた。しかしある年に、田んぼに隣接してガソリンスタンドができて、夜間もかなり深夜まで“こうこう”と照明をつけて、広い範囲の田んぼまでが明るくなってしまった。するとその翌年から蛍は全く見られなくなってしまった。
その理由は、“蛍はオスがお尻を光らせてメスにアピールして交尾をして命をつないでいく”という行為が、“夜間でも明るいという環境ではお尻の光が役にたたず”成り立たなくなってしまった”からでしょう。
●虫や小動物を捕食する動物がその地を去ってしまう
人工の光に虫が集まりすぎて、その虫が本来存在する場所に不在となって、その虫を捕食していた動物の行動に支障が出る。また暗い夜間に行動する小動物も生息地を変えてしまうので、その小動物を捕食する動物も同調してその土地を離れることになる。
●渡り鳥が迷子になる
星や月の明かりを頼りにする方向感覚が、都会のビルやサーチライトの光で狂わされて渡り鳥が迷子になる。(光害問題啓発の団体「国際ダークスカイ協会=IDA」の東京支部代表の越智信彰氏による)
② 天体観測に支障
星や天の川が見えにくくなる・・私の住む町でも40年近く前には天の川がかすかだが見えましたが、その後に街灯が増え、おまけに近所に先述の“夜にもプレイできるゴルフコース”ができて、その夜間照明の明かりが夜空をそめるに至っては全く見えずで「光害」の悪い手本。
●日本一の星空は長野県阿智村(あちむら)
阿智村は「星が最も輝いて見える場所:第1位」として環境省が平成18年に選定。標高1400mの高原にロープウェイで上がり、しかも観天時には設備などの照明を消して万全の状態で星が見られる。同村はこの星空を村おこしに利用して国内客のみならずインバウンドも狙っている。その効果は人口6000人の村に年間50万人(2018年)が来訪する。こうなると、ここの星空の素晴らしさは人の口から口へと”光害ならぬ口外”でさらに広く伝わることでしょう!
●その他の日本各地の”星空推薦地”
北海道・美瑛町/ 新潟県・妙高高原/ 長野県・南牧村/ 東京都・伊豆大島三原山/ 神奈川県・丹沢湖/ 静岡県・南伊豆町/ 山梨県・富士河口湖町/ 富山県・立山町/ 岐阜県白川郷/ 三重県と奈良県にまたがる大台ケ原/ 奈良県・吉野郡/ 兵庫県・砥峰(とのみね)高原/ 岡山県・美星(びせい)町/ 愛媛県・石鎚山(いしづちさん)/ 大分県・久住高原/ 沖縄県・波照間島(はてるまじま)
●日本より星が観られるオーストラリア
海に囲まれた狭い日本では湿度もあって空気透明度に限界があるが、海外には広大な国土の人の手が入らない地で湿度も低くければ星の見え方はすごいようだ。例えばオーストラリアは広い国土に少ない人口なので、ちょっと郊外に行けば満天の星がみられるが、中でも「ウルル(エアーズロック)」の夜空で、ここは同国の中央部で人け無し、空気は乾燥の絶好条件。この地でなくともオーストラリアに行って星空観察する日本人は多いとのこと。
↓「ウルル」(エアーズロック)高さは348mの砂岩の一枚岩山(写真は旅行案内の「トラベルドンキー」のサイトより引用)
◎光害対策は日本でも世界でも
光害対策が必要として「光害防止条例」が日本でもいくつかの自治体でつくられ、環境省も国レベルの条例制定を勘案中。世界各国でもすでに制定例は多い。
また民間でもNPO法人「国際ダークスカイ協会(IDA)」(本部=米国アリゾナ州ツーソン)が1988年に設立され、多様な分野の専門家によって、観測研究、技術研究、啓発活動、などを行い、独自基準の国際的認定制度「ダークスカイプレイス・プログラム」(星空保護区認定制度)を設けている。
◎SDGs時代の光害対策行動の一例:美星町とパナソニック社
岡山県井原市美星町(同町は1989年に日本最初の「光害防止条例」を制定)の協力があってパナソニック社が開発した「光害対策型防犯灯」と「同 道路灯」が2020年にIDCから日本メーカー初の「星空に優しい照明」の認定を受けた。
この照明灯は、星空を見えにくくすることになる上方への光漏れが無いこと、青色光の少ない白熱灯色(色温度3000ケルビン以下)であることなどの基準をクリアしたものという。
◎光害防止の要は"上方(空)への光漏れが無いこと"
IDCの指標にもあるようだが、空に向かって漏れる光は光害になるのは勿論、無駄でもあるわけで、地上、海上での各種照明が宇宙まで届くというのはとんでもない話。先述の千葉のトマト栽培の照明が空を照らすほどであれば、その漏れた光エネルギーをトマトに集中させれば"すべて良し"となるはず。
◎光害防止の要は"上方(空)への光漏れが無いこと"
IDCの指標にもあるようだが、空に向かって漏れる光は光害になるのは勿論、無駄でもあるわけで、地上、海上での各種照明が宇宙まで届くというのはとんでもない話。先述の千葉のトマト栽培の照明が空を照らすほどであれば、その漏れた光エネルギーをトマトに集中させれば"すべて良し"となるはず。
◎月光の存在と効果は?
月の明かりについての話は長くなるので別の機会にまわしますが・・あえてちょっとだけここで触れる理由は・・前述の”街路灯のIDC認定基準の中にある"青色光の少ない白熱灯色であること”という部分に私は疑問があるからで、なぜなら、本来夜間の光と言えば月の青白い色であり、それが自然。さらに白熱灯色の光よりも青色光のほうが波長が短いので”遠くまで届かない”、つまり光害になりにくいはずだから。
◎良寛さんは月明かりをありがたく利用した?!
※月の話と、まだ栗が出回っている時期にちなんで・・
江戸時代末期の越後の国の曹洞宗の僧で、生涯清貧を通し、粗末な庵に住みながら近所の子どもたちともよく遊んだとされるが、和歌や書に秀でていたので、同人も訪ね来ることがあっただろう。
そこで詠まれた有名な歌が・・
「月よみの光を待ちて帰りませ 山路(やまじ)は栗の毬(いが)の多きに」 (月よみ=月)
一人寂しい庵への来訪者と話は尽きず、夜になってもまだ居て欲しいので、月の光と栗の毬にかけて・・「山道は栗の毬が多い時期ですから、月が出て明るくなるまで待ってお帰りなさい」
(↑写真は「JAグループ」のHPより引用)
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