前回はアメリカの会社のRCAについてでしたが、今回はイギリスのRCAという大学をとりあげ、これに関係するダイソン、そう、あの”羽根の無い扇風機”などを世に送り出している会社の創業者についてです。(敬称略)

◎RCA=Royal College of Art
イギリスのロンドンに在る国立の美術系大学で、元は1837(日本年号では江戸時代末期の天保8)年(※1)に官立のデザイン学校として創立。1896(明治29)年に「Royal College of Art(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)」の名称になった。頭文字をとると、つまりこれが英国のRCA。日本語表示では「王立美術院」とされる。(※3)

◎RCAの卒業生にして現、学長のジェームズ・ダイソン
ダイソンはRCAで、家具・インテリアのデザイン勉強した後に工学も修めたので、その後に開発した「サイクロン式掃除機」や「羽根の無い扇風機」などは工学とデザインを融合させている。

ジェームズ・ダイソン
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ダイソン社の「羽根の無い扇風機(空気清浄化タイプ)」と「サイクロン掃除機(ハンディタイプ)」

dyson-set (2)

氏の創業したダイソン社のホームページには・・
「きちんと機能しない製品に対して不満を感じます。デザインエンジニアとして、その不満を解決する方法に取り組みます。発明と改善がダイソンの全てです。」・・と述べ

また「日経デザイン」誌によせて・・
「ダイソンにデザイナーはいない。デザインとエンジニアリングに境界はない。」とも述べている。

氏のこれらの志向は、デザインの世界に昔から存在する一つの考え方である「Form follows Function(形態は機能に従う)」と通底するところがある。

◎RCA卒業の他の有名人
○ ヘンリー・ムーア(抽象彫刻家)

○ デイヴィド・ホックニー(ポップアート画家、舞台美術家)

○ ペーター・シュライヤー(カーデザイナー:フォルクスワーゲンから起亜自動車に移り、同社社長などを経て現在は現代自動車グループ・デザイン経営担当社長)

○ スプツニ子(本名:尾崎マリサ優美。両親とも数学者、母は英国人、父は日本人という環境で育ち、一般的なデザイン概念を超越した創造活動をする。その中でもRCAで修得した「スペキュラティブデザイン」(※2)という分野に注力している。マサチューセッツ工科大学助教授を経て、東京大学特任准教授、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。国際的評価も高く、世界経済フォーラムやダボス会議にも招かれている。)
スプツニ子(Wikipediaより)
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※2:スペキュラティブデザインとは・・

※1:RCAの前身である「官立デザイン学校」創立の1837年は、同じ英国で「ヴィクトリア女王(1819~1901)」が王位に就いた年でもあり、いわゆる「ヴィクトリア王朝」とも称される時代が幕開けした。この女王君臨時代に英国史上で最も植民地を多くかかえて繁栄した。
ヴィクトリア女王
Queen_Victoria


ちょうど産業革命が1820年代に最盛期に達していたこともあり、それまでの家内制手工業から工場制手工業へ移り、工業化が進んで「英国は世界の工場」とまで言われるようになったが、いわゆる”世の中が進んだ感”に対して“手仕事の良さや昔の様式を見直す動き”も現れてきて、特に建物や家具・インテリア品にいわゆる”ヴィクトリア調”のデザインが多用された。例えば、建築にはゴシック様式など昔の様式に新時代の鉄やガラスなどの使用で味付けしたスタイルが多く採用された。

また、ウイリアム・モリス(デザイナー、詩人、思想家)も同様に”見直し”を訴えて”生活と芸術の一致”を提唱して「アーツ・アンド・クラフツ」運動を推進するなどの動きも現れた。日本の宮沢賢治の「農民芸術概論」には、このモリスの思想が受け継がれているのだそうだ。

このような時代の文化が"デザインの学校"を求めたのは自然の流れだったのだろう。

◎「リバティプリント」に残るモリス作品
「リバティプリント」とは、英国ロンドンにあるリバティ百貨店が生産・販売しているプリント木綿生地。
この百貨店の前身であるリバティ商会を1874にアーサー・リバティ氏が創業して、主に日本や東洋の装飾品、工芸品、ファブリックを輸入販売したところ、大人気で繁盛したが、ファブリックなどは絹製で繊細かつ経年劣化しやすいので、これに対処するとともにより多くの生産を自前ですることにして、”絹に近い風合いのコットンにプリントした製品”を「リバティプリント」として販売し成功。

それに伴って「アーツ・アンド・クラフツ」推進派の人々にプリントデザインなどを依頼して支援した。その中でウイリアム・モリスにも依頼している。

その後にフランスやベルギー中心に生まれたアールヌーボーの影響も受けながら、人気を得たペーズリー柄の他に”小さな花や植物、小鳥をちりばめたデザイン”も多く産み出されてその後には抽象画風のものも採用されるなど多様化して、現在までに発売されたプリント柄の総数は4万3千種を超え、しかもその多くの柄は保存されている。したがって、その中にはウイリアム・モリス作品も残っている。

ウイリアム・モリスの代表作とされるデザイン 題名「苺泥棒」
((株)ウイッシュのHPより http://www.wishcollection.co.jp/fabric.html)
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我が家では約40年前にリバティプリント生地を(日本の西武百貨店で)購入してカーテンに使ってきましたが、さすがに日光が(レースのカーテン越しとは言え)良く当たった部分は生地劣化が激しいので、現在は部分的に残し、端切れはクッションカバーに変身させています。

このプリント柄デザインがいつごろから使われているのかは分かりませんが、我が家でカーテンに使用開始後20年ほどしてリバティプリントのカタログを見たら、まだ同じプリント柄の生地が載っていたのには、"一般に、ファブリック製品デザインは超短命。家電製品でさえ数年~10年ほどで生産中止になる"という世の中で依然として存続させていることに感動したものです。

↓我が家でカーテンとして40年経過したリバティプリント生地
 (花の大きさは直径約4センチ) 
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※3:イギリス・ロンドンにはRCAの他に、歴史ある芸術・デザイン系のいずれも国立の大学が存在して、しかも日本語表示(日本語訳)では紛らわしく、日本国内では一部混同や誤認がみられる。
○ Royal College of Art=RCA:王立美術院
○ Royal Academy of Arts=RA:王立芸術院
○ University of the Arts London=UAL:ロンドン芸術大学(実際は6つのカレッジの集合体)
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