徒然G3(ツレヅレジイサン)日話秘話飛話

兼好法師ならぬ健康欲しい私がつれづれなるままに お伝えしたいこと綴ります。 時には秘話もあり!

    ジャンルは不特定で硬軟織り交ぜながら 皆様に何かお役に立てば幸いです

    2021年06月

    (前回の続編として「挿絵など、純粋絵画ではないが大切な絵の色々(2)」となるものです)

    前回に、主に児童向け絵本には具体(具象)的、写実的な挿絵の必要性を述べましたが、今回は、より年齢が上の子供から大人に至る層までを対象とした“純粋絵画ではないが、何らかの有効性を意識して描かれた、写実的(リアル)で魅力的な絵”をご紹介。

    ◎”サンタは赤い服”を”定着”させたコカコーラの広告絵
    ”サンタクロースは赤い服を着て、白いひげをはやしている”というイメージが”定着”したのは米国の「コカ・コーラ社(THE COCA-COLA COMPANY) 」が1931(昭和6)年から毎年のクリスマスキャンペーン広告の絵に登場させてからである”という説は間違いないようだが、かと言って元祖ではなく”赤い服・白いひげの姿の絵”そのものは、それより以前に米国の雑誌には赤系色の服が描かれていたし、日本でも1914(大正3)年の雑誌「子供之友」には赤い帽子に赤い服のサンタがすでに登場していたそうだ。

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    我が家にある”歌って踊る(電動)サンタ人形”たち

    しかしながらやはり、コカコーラ社の広告絵の影響が大きかった理由は、広告アート担当者だったハッドン・サンブレム氏が描いた愛嬌のあるサンタがリアル感溢れて身近に感じさせたもので、しかも毎年のクリスマス時期の広告に、前年とはちがった動きを表した姿のサンタを登場させるということを30数年つづけたからにちがいない。

    コカコーラ広告のサンタ (画集書籍 LE MONDE MERVEILLEUX「DE Coca-Cola」より)
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    勿論コカコーラの広告に採用されたのはサンタばかりではなく、その他にも有名な画家ノーマン・ロックウェル氏らに依頼した絵なども使用している

    ◎ノーマン・ロックウェルの米国市民生活活写の絵 !
    ノーマン・ロックウェル(1894~1978)(以下文中N.ロックウェル)は米国のイラストレーターとも画家とも言われ、絵の題材は米国市民の日常生活場面を切り取ったものが多く(晩年は社会問題にふれるものも若干あったが)、その画風は一見、写実的だが”遠くのモノ・人も近くのそれとほとんど同じような明瞭さ、強さで描き”また”影をあまり描かなかった”ので「超写実的」とも言われる。これは言わば”説明的な絵”でもあり理解しやすかったので、彼は芸術家とは認識されなかったものの人気が高かったのだろう。

    彼の作品の中でも最も多く大衆が目にしたのは雑誌「サタデーイヴニングポスト」(以下文中「ポスト」)の表紙絵で1916年から1963年までの48年間続いた。その他「ルック」誌掲載用の絵や多数の会社の広告絵も手掛けた。

    N.ロックウェル本人を描いて「自画像」という題にした「ポスト」表紙絵
     (以下5枚画像は画集「アメリカンノスタルジア ノーマン・ロックウェル」=パルコ出版部発行より)
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    最高傑作とも言われる「食前のお祈り」(「ポスト」表紙絵)
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    題名「婚姻届け」(「ポスト」表紙絵)
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    題名「虫歯予防デー」(「ポスト」表紙絵)
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    題名「知る権利」(「ルック」誌掲載の絵)
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    そして前述のように、N.ロックウェルがコカコーラの依頼で描いた絵がある。
    コカコーラ広告用の絵 (画集書籍LE MONDE MERVEILLEUX「DE Coca-Cola」より)
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    ◎説明的な”日本の物語絵巻の絵”や”各種の図鑑の絵”
    N.ロックウェルの絵には説明的表現の性格が含まれていると前述しましたが、これと同様な性格を持つのが”日本の物語絵巻の絵”であり、例えば平安貴族の館の中の様子は・・
    1. 奥に居る人や物も手前に居る人や物と同じ大きさに表すために、西洋画のような《消失点をもった遠近法》の手法をとらずに、奥の部屋も手前の部屋と同じ広がりを持たせて、人・物を配置する。
    2. 奥の人・物を空気遠近法のようにぼかすことをしない。
    3. 影をつけない、描かない。(伝統的日本画の特徴)

    「源氏物語絵巻 夕霧」(復元模写版 徳川美術館所蔵より引用)
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    こうして見ると、N.ロックウェルの絵には上記2と3に通じるところがある。

    この2と3の描法を徹底するのが”各種の図鑑の挿絵”であることは言うまでもないでしょう。しかし動物図鑑、植物図鑑、飛行機図鑑、などなど多種多様にあるものの、なかには絵よりも写真を使う方が手っ取り早い分野もある一方、写真よりも絵で説明する方がわかりやすいのが”植物”です。

    ところが絵でも写真でも表現が難しいのが「岩石」「鉱物」でその図鑑は存在するものの、実際は、”ある実物の岩石の名称を調べようとして図鑑を見ても、似たような種類が複数存在する場合は、図説だけでは判定が難しい”ことが多いもの。それは微妙な光沢や手触り感の相違、比重の違いも判断要素になるからで、ゆえに「岩石」「鉱物」の場合は実物(小片など)標本も必要になる。

    ◎ボタニカルアート
    写真よりも絵で説明する方がわかりやすいのが”植物”と前述しましたが、古代から薬草は重用されたが、”ある薬草には類似した毒草がある”という場合もあるので詳細な図説は必須だったという状況から、精密植物画の歴史は古く長い。その後、薬草に限らない植物全般が描画対象となっていたものが、西欧では19世紀になると鑑賞対象にもなり、「ボタニカルアート」(botanical art=植物学的芸術)と呼ぶジャンルが派生した。
    (詳しくは・・https://biz.trans-suite.jp/26666  )

    「ボタニカルアート」たる条件4ケ条というものがあるそうで・・
    1. 植物の外観特性忠実描画
    2. 実物大
    3. 背景無し
    4. 人工物(花瓶、植木鉢など)無し
    私が思うに、大切なことが抜けている・・それは・・
    5.      影をつけない

    例 (biz.trans-suite.jpより引用)
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    例 (www9.plala.or.jpより引用)
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    ↓"学術イラストレーション"と称する分野の例
     (植物と動物:斎藤光一の作画)
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    ◎昆虫の精密画と言えば、手塚治虫!
    昆虫好きな有名人と言えば、先ず「昆虫記」のファーブル、自作特殊レンズ使う昆虫写真家の栗林慧、NHKのeテレで「昆虫すごいぜ」という番組を持つ俳優の香川照之、個人で毎年5千匹も育てる中で世界最大のカブトムシを育てた俳優の哀川翔、
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    (他にもおられるようですが割愛して)大トリは手塚治虫。ペンネームは昆虫の「オサムシ」からとったというほど昆虫好きの手塚が中学生の時に描いた非常に緻密な昆虫標本図が残されている。私がその存在を知ったのは、今から35年ほど前だったか?に雑誌「BE-PAL」の中で特別カラーグラビアの折込ページに掲載されたのを見たからで、カリスマ・マンガ家の別の素養を知って驚きました。

    手塚治虫が中学生時代に描いた昆虫図
      (画像は、ブログ「ガゾウ (livedoor.jp)」より引用)
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    次回も、続々編の「挿絵など、純粋絵画ではないが大切な絵の色々(3)」で魅惑の絵師たち紹介です。
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    挿絵など、純粋絵画ではないが大切な絵の色々!(1)
    世の中には用途によって多様な種類の”絵”がありますが、美術作品として鑑賞されるような絵ではないが、”ある役目を背負って描かれる絵”という存在があり、それを描く作者たちがいます。

    ◎絵本の挿絵への疑問
    今回、そもそも“絵”をテーマにしたきっかけは、近代の子供向け絵本の挿絵の現状に少し疑問をもったからで、それは”描かれる人、動物、植物、服、モノ、家、山、川などあらゆるものが概念的で単純化されている”ことが、全ての絵本にとってそれで良いことなのか?・・というものです。

    一般的に脳力が未発達の”幼児”向けには、物語と挿絵は動物、植物、やモノなどを単純化、擬人化、概念化したカタチがとられ、例えば先日(2021.5.23)に亡くなった米国の絵本作家エリック・カール氏の「はらぺこあおむし」の挿絵などは、これに該当するでしょう。
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    ◎具体的・写実的な挿絵の効果
    しかし一方、その対象読者となる子供の脳の情報処理力が発達してからは、絵本のストーリーと挿絵が具体的で細かい表現であっても認識されるようになって、例えば「あおむしはこんな色・形をしているんだ」 「(都会育ちの子なら)田舎はこんな風景で、山や川はこうゆう風に見られるんだな」 「昔は水を、こんな格好した井戸というものから汲んだんだ」 「武士が着ている鎧というものは何か細かい板が沢山ついているな」・・

    というような写実的付帯情報を得ながら登場人物が置かれている環境や時代背景を踏まえられるのでストーリーの印象がより強まりますが、挿絵が”概念化、単純化”したものであれば印象に残ることは少ないもの。

    私がこのようなことを言い出した背景には、私自身の体験があるからで、その原点は「講談社の絵本」シリーズで、小学校入学前後から読み始めたものですが、この本の挿絵は殆どが具体的(具象的)・写実的であり、しかも(私は最近になって知ったことですが)絵の作者は日本画、洋画の一流の人たち※だったので、丁寧に描かれた挿絵の視覚的印象は強く残っています。

    例えば「安寿と厨子王」では”昔の子どもたちの旅姿はこんな着物を着ていたんだ”とか「ロビンソン漂流記」では”無人島でも工夫してこんな家具や住家が作れて作物も自分で作れるんだ! 僕もやってみたいな”・・などと視覚情報からも刺激を受けるなどインパクトは大きく、その後の人生にまで影響された人も多いようで、グラフィックデザイナーから画家にもなった横尾忠則氏や歴史作家になった永峯清成氏もそのように述懐されている。私も少なからず影響を受けて後の自分の職業につながった部分があります。
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    ◎「講談社の絵本」シリーズ
    現在の講談社がまだ「大日本雄弁会講談社」と称していた戦前の昭和11年から昭和33年まで、途中で何度かシリーズ名を改称しながら刊行。その後も平成に至るまで二度ほど”シリーズの中から厳選約20冊をまとめて発刊”などした。こうして創刊から販売総計なんと7000万部は、その質と量で日本の子どもたちに与える影響が大きかった。

    ・「講談社の絵本」・・1936(昭和11)年~1942(昭和17)年
    ・「コドモヱバナシ」と改称して・・1942(昭和17)年~1944(昭和19)年
    ・「講談社の絵本イッポンノワラ」と改称して・・1945年10月
       (終戦2か月後)復刊するもすぐ終刊
    ・「講談社の絵本」の名で再登場して・・1946(昭和21)年~1958(昭和33)年
         (この昭和33年に社名を(株)「講談社」に変更)
    ・「講談社の絵本 ゴールド版」・・1959(昭和34)年~1965(昭和40)年まで?発刊
    ・「講談社の絵本 完全復刻版」(全24巻)同時発刊・・1970(昭和45)年
    ・「新・講談社の絵本」(全20巻) 同時発刊・・2004(平成16)年

    戦後の「講談社の絵本」の一部(ヤフオクページより引用)
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    表紙絵の例「牛若丸」(戦前版):右から書き・カタカナルビ
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    表紙絵の例「牛若丸」(戦後版):左から書き・ひらがなルビ
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    表紙絵の例「牛若丸」(「新・講談社の絵本」版):丸ゴチック文字
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    挿絵の例「かぐや姫」
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    挿絵の例「青い鳥」(supekuri.shop-pro.jpより引用)
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    「講談社の絵本」の本文と挿絵の一流作家・画家(イラストレーター)たち
    本文を担当した作家:村岡花子、西條八十、宇野千代、川端康成、円地文子、有吉佐和子、石井桃子、平野威馬雄(平野レミの父)、他

    挿絵を担当した画家:高畠華宵、蕗谷虹児、加藤まさを、小松崎茂、沢田重隆、松本かつぢ、他。(この6人については次回に紹介)

    ◎具体的・写実的基礎を踏まえての単純化・抽象化・概念化
    画家のピカソ、マチス、熊谷守一たちは、絵の対象物を抽象化あるいは単純化した画風が有名ですが、この人たちも元は精密な石膏像デッサンなどで基礎を磨き、その後に具象的・写実的絵画を描いた時期を経過した後に”単純化・抽象化”の領域に至っている。換言すれば、彼らは”モノの姿・有様”をしっかり捉えているからこそ、そのエッセンスを抜き出して単純化や抽象化した表現ができた。

    ピカソのデッサン(新美ブログより引用)
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    マチスのデッサン(アトリエヒュッテのHPより引用)
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    熊谷守一のデッサン(ちょっと狂いがあるが・・)
      (金井 直氏の論文より引用)
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    ◎子供向け絵本には具体的・写実的な挿絵がもっと在って良い!
    子どもに最初から単純化・抽象化したモノばかり見せたら、モノの実際の姿、本物を知らないまま育ってしまう。それらを先に知らしめてから、必要に応じて単純化・抽象化するのが順序というものでしょう。

    別の視点から見れば、子供向け絵本などの挿絵作者は「語りの文章の内容に沿って、実にうまく単純化・象徴化した絵が描けた!」として大人の視点の満足感を得ているでしょう。しかしすべてこれが子供のためになっているか?・・ということです。
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    なお、ここでは絵本の挿絵に特定しましたが、テレビや映画のアニメ化した物語に関しては、動画なので製作コストや時間的制約など条件が絵本とは異なるので、単純化した絵が主流になるもの。
    しかし、単品モノの物語作品などでコストをかけられる場合には、(人物はともかく)背景などには写実的な絵が採用されることも多い。スタジオジブリ作品にもそれが多く、「おもひでぽろぽろ」では紅花畑が出てくるシーンのために高畑勲監督はスタッフをひきつれて山形県に行き、実際の紅花とその栽培畑を観察させて、本物を十分に知ってから作画させている。
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    長くなるので次回には、子供または大人に向けた”写実を基本にした(純粋絵画ではない)絵”を紹介。
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    蛇足:先日(2021.6.5)、「はらぺこあおむし」の作者の死去間もなくのこと、毎日新聞の風刺漫画コーナーに「エリック・カールさんを偲んで はらぺこIOC 食べまくる物語」という題で” はらぺこあおむしの恰好をしたバッハ会長やIOC役員たちが《放映権》というリンゴをむさぼり食う似顔絵”が掲載されたそう。
    これに対して、「はらぺこあおむし」の日本での出版元である偕成社は「風刺の意図はわかるが、この物語の本当の意味が分かっていない表現であり、強い違和感を感じる」というコメントを同社の公式サイトで表明したとのこと。・・この物語は”あおむしが一生懸命に食べて後に美しい蝶になる”という筋書きであるので、これとなじまないからだ。
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