「香害」が、“大多数の人がよい香りと感じるものの、一部の人が不快と感じたり、体調不良を起こす”という性格なのですが、他方、ほとんど全ての人が不快と感じる臭いで起こるのは「臭害」と言えましょう。最近、神奈川県で起きている異臭騒ぎも「臭害」の例。そして今やタバコの煙に伴う臭いも「臭害」となる。しかしながら、「香」とは言えない「匂い」については、”個人差”、”その匂いに接する時間・期間”、”匂いに対する馴れ”などによって、その快・不快感は様々なので、「臭害」となるものもあれば「臭害のようなもの」もある。
◎「臭害」の明らかな例:富士市の製紙工場関連の臭気
悪臭で有名な静岡県富士市。昔、まだ新幹線が無かった頃に、東海道線の(窓が開く)列車が静岡県の富士市あたりを通過する際には、独特の強い臭いが客車内にまで侵入してきたことを私ははっきり覚えています。悪臭源はパルプ、製紙の工場群の排水・排煙(ガス)ですが、この悪臭は市内外で認識されている、つまり自他ともに認めるもので、市や商工会議所は昭和40年代から本腰を入れて、指導、条例作成、改善費用の融資などを行ってきた結果、大幅改善しているものの、さらに持続可能な循環型社会への貢献も視野に入れた努力がなされている。
↓富士市の悪臭防止法による臭気指数規制の説明
(富士市環境部環境保全課 発信PDFより)
(富士市環境部環境保全課 発信PDFより)
↓現在の富士市の工場群夜景
(富士市商工会議所編纂の「公害克服史」より)
(富士市商工会議所編纂の「公害克服史」より)
◎「臭害」を改善して「消害(小害)化」の例:火葬場、ごみ処理場、(畜産業舎)
昔、私が通った中学校(東京都豊島区)では、授業中の教室に時折ですが近くの火葬場から独特の臭いが流れて来たもので、ゴミ焼却場なども同様でしょうが、これらの施設が在る場所は“もっと昔は人家の少ない郊外だったり、人里はなれた土地だった”はずが、その後、周囲が街になってしまったのでしょう。現在は、脱臭装置や非常に高い煙突などで対処しているようです。
ちなみに、東京都内各区のごみ処理場の煙突の最高は豊島区で210m、中央区180m、その他は150mが多く、最低の大田区47mは羽田空港の飛行機離発着のための規制によるもの。
↓東京・豊島区・池袋のごみ処理場煙突210m
(東京二十三区清掃一部事務組合のHPより)
(東京二十三区清掃一部事務組合のHPより)
しかし、異臭・悪臭への対処があまりうまくいっていない例が、鶏、牛、豚などの大型飼育施設のようで、これも風の向きによっては不快な臭いがする地域を私が知る限りでも神奈川県、千葉県などに複数個所あります。
かつて私が住んでいた東京・豊島区の家は既に周囲を民家が取り囲んでいる状態だったのに、昭和30年代前半まで祖父が鶏を約200羽飼っていて、おまけにヤギの“つがい”も飼っていたので、異臭が発生していただろうものを、どのように対処していたのか、今考えると不思議です。(余談ですが、それで私は卵と“牛乳がわり”のヤギの乳で育ちました)
◎馴れによって「臭害」とは思われない例
ある地域あるいは、その家に独特の臭いというものがあって、長年そこに住む人たちはそれを不快とも何とも思わないでいるようですが、他の地域からその地に来た人、あるいは他人の家に訪問した人には、それが異臭、悪臭と感じてしまう場合があります。
例えば、大阪市の水道水は現在は気にならないほどに改善されましたが、50年前は非常に“どぶ臭かった”もので、その頃に私が大阪に赴任した際、それまで東京に住んでいて決して良い水ではなかったものを飲んでいた私でさえ驚嘆したものですが、不快ながらも我慢して飲用しました。府民の人たちは不感状態だったのでしょう。
大阪府民と兵庫県民の一部の水道水は淀川から取水していますが、その川水のおおもとは琵琶湖最北岸に流れ込む数本の川の水で、そこでの湖水は“水清ければ魚棲まず”の言葉通りに魚がいないほどの清い水。それが琵琶湖最南部から流れ出た水は京都府民が使い、その使い終わった水が(勿論、浄化はしているでしょうが)淀川に流れ込んで大阪に下るわけで、余談ですが当時ある大学で大阪の淀川の水質検査した結果は、単なる濁りや臭いだけでなく非常に毒性の強い成分が検出されたと発表したもので、当時の大阪府民の平均寿命が男女とも全国で最下位だったことと関係があると私は考えています。
それを反映するように、水質改善進んだ現在の大阪は平均寿命が上がっていますが、やはり“琵琶湖・淀川水系”の上流の府県民は寿命が長い結果が出ています。
都道府県別平均寿命ランキング:男性1位=滋賀、3位=京都、11位=東京、38位=大阪、47位=青森/女性1位=長野、4位=滋賀、9位=京都、15位=東京、38位=大阪、47位=青森(2015年の国勢調査結果より)
◎「嫌いとまでは言えぬ臭い」と「嫌い(臭害)」とに評価二分の例
(1)醤油の町:千葉県野田市(キッコーマン、キノエネなど)、兵庫県たつの市(ヒガシマル。余談ですが、ここは素麺の「揖保乃糸」の生産地でもある)や石川県金沢市大野町など醤油製造工場が多いところは町の一部が醤油の匂いに満ちています。これらの町の外部から来た人たちのこの匂いに対する感じは「嫌いでない」と「嫌い」に分かれる。しかし地元の方は“それが空気のよう”なものなのでしょう。
↓東武野田線・野田駅前風景(キッコーマン工場に囲まれている)
(PIASさんのブログより)
(PIASさんのブログより)
(2)焼き肉の町:大阪市のJR環状線の鶴橋駅と近鉄大阪線の近鉄鶴橋駅の周囲には焼き肉店が密集していて、この駅のホームに立つと焼き肉の匂いがしっかりと漂っていることは有名で、私も経験しています。日本中でもこのように匂う駅というのは、そう無いでしょう。この近辺には朝鮮半島から渡日してきて住みついた人が多く、1930年代には焼き肉店がすでに多数存在していたという歴史がある。ここでの焼き肉の匂いに対する感じも二分するでしょう。
↓大阪・鶴橋近辺の焼き肉店の密集(朝日新聞より)
(3)漢方薬の町:東京・秋葉原は今でこそコスプレ、メイドカフェ、フィギアの街になっているが、以前は電器の街であったことはよく知られている。しかし実は“漢方薬店”と“自転車の店と自転車関係工場”が多く在った街でもある。昔の秋葉原を懐かしむ人たちの中には「石丸電気のレコード売り場には、漢方薬の匂いが近所から流れて込んでいた」と語る人もあるように、街の一角はかなり強烈な漢方薬の匂いが漂っていた。この匂いは、嫌いでない人と嫌いな人に分かれる。ある主婦は漢方薬を自宅で煎じて飲んでいたところ、夫がこの匂いに耐えられないと訴えるので服用を中止せざるをえなかったという実例もある。
◎「良香」か「香害」か「臭害」か意見が分かれる例
私の経験では、夜遅く東京駅から終電近くの東京メトロ(地下鉄)に乗って池袋方面に向かう車内は、いわゆる“脂粉の香り(匂い)”実際はほとんど香水の香りが満ち満ちて、言わば”香水の洪水”状態。この状況は他のいくつかの路線でも同様に起きていることなのでしょう。これは言うまでもなく銀座、新橋あたりの“接待を伴う飲食業”に勤める女性たちが一斉に帰路につくため起きる現象。
私個人はこのような“香”は好きなものの、しかし他の乗客の皆さんはこれを“香”か“匂い”か“臭い”か、どう思っているのか、皆、無言なので判断ができませんが、電車内なのでほぼ密閉空間内という条件で、しかも乗車が短時間なのか長時間なのかにも左右されるので、乗客それぞれで感じ方も多様でしょう。
※「香り」飛話・・今から50年ほど前、私の関西勤務が始まった頃に知ったことですが、京都市中京区に在る喫茶店「イノダコーヒー」は店内では“喫煙禁止”で有名でした。こだわりのネルドリップによるコーヒーの香を味わうにはタバコの煙の香り(ではなく匂いか)は邪魔者として排除したわけで、当時は喫茶店やバーなどでは喫煙はむしろ付き物だった時代なので、異例の店でした。しかしその後なぜか禁煙廃止した期間を経て2016年に再び禁煙に戻ったそうです。(現在、京都中心の店舗展開だが関東では大丸東京店内、横浜高島屋内にも支店あり)
↓「イノダコーヒー」本店店内
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