小津安二郎監督のこだわりが素晴らしい作品を産み出すので、俳優の宝田明は小津を「オズの魔法使い」と呼んでいますが、今回は「小津アングル」や前回のブログでとりあげた「水影」以外のこだわり例を少し集めて私見も加えてみました
◎小津のこだわり(1)小道具
小津は撮影画面に登場させる 食器 やかん 茶箪笥 美術・骨董品 ラジオ なども画面の中の重要な一要素として意識的に扱った そのためには 日頃自宅で使用中のお気に入りのモノを撮影現場に持ち込んで使ってもいた したがって撮影期間中は小津の自宅室内はガランとしていたことも多かった
しかし中には”そのモノがそこに在る違和感”を感じさせる場面もある・・例えば室内に普通のテレビ受信機を置いているところを見せないのか またはもともとテレビを見ない家庭であるという設定ともとれる中で 茶箪笥?の上に小型ポータブルタイプのトランジスタテレビ(ソニー製ではない)を置いているのは不可解だが何か深い意味があるのだろうか また 居間では茶箪笥などの上に置いた据え置き型ラジオを聴くのが一般的だったのにポータブルタイプの(小津好み?のちょっと変わったデザインの)ラジオが置いてあり それを聴くシーン(彼岸花)がある そして後述する"やかん"も普通は畳の上に置かないのに置いてしまっている このように小津映画には"こと画面の中でのモノに関しては一般的家庭との乖離"を感じさせる部分がある
しかし中には”そのモノがそこに在る違和感”を感じさせる場面もある・・例えば室内に普通のテレビ受信機を置いているところを見せないのか またはもともとテレビを見ない家庭であるという設定ともとれる中で 茶箪笥?の上に小型ポータブルタイプのトランジスタテレビ(ソニー製ではない)を置いているのは不可解だが何か深い意味があるのだろうか また 居間では茶箪笥などの上に置いた据え置き型ラジオを聴くのが一般的だったのにポータブルタイプの(小津好み?のちょっと変わったデザインの)ラジオが置いてあり それを聴くシーン(彼岸花)がある そして後述する"やかん"も普通は畳の上に置かないのに置いてしまっている このように小津映画には"こと画面の中でのモノに関しては一般的家庭との乖離"を感じさせる部分がある
◎小津のこだわり(2)色使い(特に赤)
画面の中での色彩構成にも気を使い 色彩的に単調な画面にアクセントとなる いわゆる「差し色」として「赤」を使うことが多かった 画面に赤いものをぽつんと置く狙いを小津はよくこう言っていた「全体の画(え)が締まる」! それは具体的には “畳の上にポンと赤いやかんが置いてあったり(彼岸花)” ”画面中央の人物の後ろに赤い消火器と赤いバケツが並べられていたり(浮草)” 決して赤が主張はしないが 観る者には意識しなくても視覚的好感を与えるようにしている しかしやはり(朝日新聞2014年7月13日の「小津安二郎がいた時代」というコラム記事によると)"小津映画のプロデューサーだった山内静夫は振り返る。「ちょっとこの座敷に赤いやかんはおかしいなと思っても、赤いものがすきだってことが優先するんです」"という証言がある
画面の中での色彩構成にも気を使い 色彩的に単調な画面にアクセントとなる いわゆる「差し色」として「赤」を使うことが多かった 画面に赤いものをぽつんと置く狙いを小津はよくこう言っていた「全体の画(え)が締まる」! それは具体的には “畳の上にポンと赤いやかんが置いてあったり(彼岸花)” ”画面中央の人物の後ろに赤い消火器と赤いバケツが並べられていたり(浮草)” 決して赤が主張はしないが 観る者には意識しなくても視覚的好感を与えるようにしている しかしやはり(朝日新聞2014年7月13日の「小津安二郎がいた時代」というコラム記事によると)"小津映画のプロデューサーだった山内静夫は振り返る。「ちょっとこの座敷に赤いやかんはおかしいなと思っても、赤いものがすきだってことが優先するんです」"という証言がある
◎小津のこだわり(3)水平・垂直
画面に端正さや落ち着きを持たせるために よく使われたのが“オフィスの狭い廊下や街の狭い路地とその突き当りの組み合わせ”で これによってできる”廊下や路地の切れ目にできる垂直的な線”と”突き当りに存在する水平的な線”が「水平・垂直線による構成画面」を形成する
画面に端正さや落ち着きを持たせるために よく使われたのが“オフィスの狭い廊下や街の狭い路地とその突き当りの組み合わせ”で これによってできる”廊下や路地の切れ目にできる垂直的な線”と”突き当りに存在する水平的な線”が「水平・垂直線による構成画面」を形成する
そして(これは小津作品に非常に詳しい伊藤弘了氏の文章によると)水平と垂直は室内のパーティーシーンなどに注目すべき表現で現れるのだそうで・・テーブル上に置かれたグラスの中身の液体の飲料のそれぞれの水面の高さを揃え その水面も丁度カメラを同じ高さにして飲料表面が楕円形として現われないようにし かつその他の食器(下画面ではフルーツ皿)の縁の高さも揃え すべてを結ぶと一本の水平線になるように綿密に配慮されている そして背景には垂直な二本の線 それも下画面の田中絹代のように中心に人間が居ればそれを取り囲むフレーム(額縁)のような効果を生む構成にする
小津分析の伊藤弘了氏の文章と写真(文春オンライン)→ https://bunshun.jp/articles/-/9552
↓ワインやジュースの高さと皿の縁高さ揃えと額縁効果(「彼岸花」より)
◎小津のこだわり(4)妥協しない演技指示
「秋刀魚の味」に出演した岩下志麻の証言としてよく知られている話が “やるせなく悲しい気持ちで呆然とする”シーンで”左手指二本に右手にもった布製巻き尺(洋装店などでよく見る)をグルグル巻いては解く動作を数回繰り返す”のだが 撮影事前テストで岩下はその行為を100回以上やり直しさせられた やっとOKが出た後で小津に言われた言葉は・・「悲しい時に人間っていうものは悲しい顔をするもんじゃないんだよ 人間の感情ってそんな単純なものじゃないんだよ」・・岩下は”ただ悲しい表情にこだわりすぎていたのだ”と気づかされたのだった
↓これがOK出た後のシーン
「秋刀魚の味」に出演した岩下志麻の証言としてよく知られている話が “やるせなく悲しい気持ちで呆然とする”シーンで”左手指二本に右手にもった布製巻き尺(洋装店などでよく見る)をグルグル巻いては解く動作を数回繰り返す”のだが 撮影事前テストで岩下はその行為を100回以上やり直しさせられた やっとOKが出た後で小津に言われた言葉は・・「悲しい時に人間っていうものは悲しい顔をするもんじゃないんだよ 人間の感情ってそんな単純なものじゃないんだよ」・・岩下は”ただ悲しい表情にこだわりすぎていたのだ”と気づかされたのだった
↓これがOK出た後のシーン
(それにしても 小津はこの”指にヒモ状のモノを巻く行為”の演技を盛り込むことを好み 例えば「晩春」にも採用している)
アイロンがけの動作にも小津から実に細かい指示があるので それを忠実に実行しようとするあまりに演技が不自然になり それが自然に見えるようになるまで50~60回のテストになったこともあったという
※青字部分は映画史研究家の春日太一氏の文章から引用
そして小津作品に必須の俳優である笠智衆は自ら不器用と称していたが 撮影現場でベテラン俳優は2~3回のテストで本番に入るが 笠の場合はそれが20回に及ぶこともあったという
話はチョットそれるが 日本の映画撮影における最高のカメラマンだった宮川一夫は多くの名監督とコンビを組んだが 小津とは所属する映画会社がちがっていたから 基本的にコンビはあり得なかったが ある状況のもとで一回だけ実現した それが「浮草」だった この映画では宮川の強い主張によって 従来の小津作品には無い”町を俯瞰”するシーンが冒頭から出現するなど 特異な作品となった
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