徒然G3(ツレヅレジイサン)日話秘話飛話

兼好法師ならぬ健康欲しい私がつれづれなるままに お伝えしたいこと綴ります。 時には秘話もあり!

    ジャンルは不特定で硬軟織り交ぜながら 皆様に何かお役に立てば幸いです

    2020年07月

    小津安二郎監督のこだわりが素晴らしい作品を産み出すので、俳優の宝田明は小津を「オズの魔法使い」と呼んでいますが、今回は「小津アングル」や前回のブログでとりあげた「水影」以外のこだわり例少し集めて私見も加えてみました 

    ◎小津のこだわり(1)小道具
    小津は撮影画面に登場させる 食器 やかん 茶箪笥 美術・骨董品 ラジオ なども画面の中の重要な一要素として意識的に扱った そのためには 日頃自宅で使用中のお気に入りのモノを撮影現場に持ち込んで使ってもいた したがって撮影期間中は小津の自宅室内はガランとしていたことも多かった 

    しかし中には”そのモノがそこに在る違和感”を感じさせる場面もある・・例えば室内に普通のテレビ受信機を置いているところを見せないのか またはもともとテレビを見ない家庭であるという設定ともとれる中で 茶箪笥?の上に小型ポータブルタイプのトランジスタテレビ(ソニー製ではない)を置いているのは不可解だが何か深い意味があるのだろうか また 居間では茶箪笥などの上に置いた据え置き型ラジオを聴くのが一般的だったのにポータブルタイプの(小津好み?のちょっと変わったデザインの)ラジオが置いてあり それを聴くシーン(彼岸花)がある そして後述する"やかん"も普通は畳の上に置かないのに置いてしまっている このように小津映画には
    "こと画面の中でのモノに関しては一般的家庭との乖離"を感じさせる部分がある

    ◎小津のこだわり(2)色使い(特に赤)
    画面の中での色彩構成にも気を使い 色彩的に単調な画面にアクセントとなる いわゆる「差し色」として「赤」を使うことが多かった 
    画面に赤いものをぽつんと置く狙いを小津はよくこう言っていた「全体の画(え)が締まる」! それは具体的には “畳の上にポンと赤いやかんが置いてあったり(彼岸花)” ”画面中央の人物の後ろに赤い消火器と赤いバケツが並べられていたり(浮草)” 決して赤が主張はしないが 観る者には意識しなくても視覚的好感を与えるようにしている  しかしやはり(朝日新聞2014年7月13日の「小津安二郎がいた時代」というコラム記事によると)"小津映画のプロデューサーだった山内静夫は振り返る。「ちょっとこの座敷に赤いやかんはおかしいなと思っても、赤いものがすきだってことが優先するんです」"という証言がある

    ◎小津のこだわり(3)水平・垂直
    画面に端正さや落ち着きを持たせるために よく使われたのが“オフィスの狭い廊下や街の狭い路地とその突き当りの組み合わせ”で これによってできる”廊下や路地の切れ目にできる垂直的な線”と”突き当りに存在する水平的な線”が「水平・垂直線による構成画面」を形成する
    水平・垂直例 ここにも差し色の赤が入っている(「秋刀魚の味」より)
    samma-floor
    そして(これは小津作品に非常に詳しい伊藤弘了氏の文章によると)水平と垂直は室内のパーティーシーンなどに注目すべき表現で現れるのだそうで・・テーブル上に置かれたグラスの中身の液体の飲料のそれぞれの水面の高さを揃え その水面も丁度カメラを同じ高さにして飲料表面が楕円形として現われないようにし かつその他の食器(下画面ではフルーツ皿)の縁の高さも揃え すべてを結ぶと一本の水平線になるように綿密に配慮されている そして背景には垂直な二本の線 それも下画面の田中絹代のように中心に人間が居ればそれを取り囲むフレーム(額縁)のような効果を生む構成にする
    小津分析の伊藤弘了氏の文章と写真(文春オンライン)→  https://bunshun.jp/articles/-/9552

    ワインやジュースの高さと皿の縁高さ揃えと額縁効果(「彼岸花」より)
    ozu-horizon (2)

    ◎小津のこだわり(4)妥協しない演技指示
    「秋刀魚の味」に出演した岩下志麻の証言としてよく知られている話が “やるせなく悲しい気持ちで呆然とする”シーンで”左手指二本に右手にもった布製巻き尺(洋装店などでよく見る)をグルグル巻いては解く動作を数回繰り返す”のだが 撮影事前テストで岩下はその行為を100回以上やり直しさせられた やっとOKが出た後で小津に言われた言葉は・・「悲しい時に人間っていうものは悲しい顔をするもんじゃないんだよ 人間の感情ってそんな単純なものじゃないんだよ」・・岩下は”ただ悲しい表情にこだわりすぎていたのだ”と気づかされたのだった
    ↓これがOK出た後のシーン
    iwasita-sima (2)
    (それにしても 小津はこの”指にヒモ状のモノを巻く行為”の演技を盛り込むことを好み 例えば「晩春」にも採用している)

    アイロンがけの動作にも小津から実に細かい指示があるので それを忠実に実行しようとするあまりに演技が不自然になり それが自然に見えるようになるまで50~60回のテストになったこともあったという
    青字部分は映画史研究家の春日太一氏の文章から引用
    アイロンがけシーン ここでも赤色あり
    iwaasita-iron
    上映像引用先

    そして小津作品に必須の俳優である笠智衆は自ら不器用と称していたが 撮影現場でベテラン俳優は2~3回のテストで本番に入るが 笠の場合はそれが20回に及ぶこともあったという
    話はチョットそれるが 日本の映画撮影における最高のカメラマンだった宮川一夫は多くの名監督とコンビを組んだが 小津とは所属する映画会社がちがっていたから 基本的にコンビはあり得なかったが ある状況のもとで一回だけ実現した それが「浮草」だった この映画では宮川の強い主張によって 従来の小津作品には無い”町を俯瞰”するシーンが冒頭から出現するなど 特異な作品となった
    宮川一夫
    miyagawa2
    上写真引用先
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    映画監督たちは当然のように皆こだわりをもっているが 小津安二郎監督のそれはよくあげられ 中でも有名なのは「小津アングル」と言われるローアングル撮影 その他にも多々あるが 今回は ある一つのこだわりをとりあげてみた

    ◎小津作品に多く採用の「水影」(みずかげ)に注目! 
    「水影」とは陽の光が水面に当たって反射して建物の軒や室内の天井あるいは壁などに”ゆらゆらとゆれる光”となって映るもの (「水影」については 私の広辞苑には”水にうつるかげ”としか載っていないが最近の他の辞書には(1)水面に映る者の姿 また 姿を映している水面 (2)水面の照り返し・・とある) 
    実例として下の写真参照下さい
    terikaesi1
    より引用

    terikaesi2
    より引用

    ◎小津監督作品10本の内7本に「水影」あり!
    小津氏がいかに「水影」を重要視したかは それが登場するシーンが非常に多いことで分かる 私は以前から小津作品に「水影」登場が多いことに気づいていたのだが 今回このブログを綴るにあたって とりあえずあらためて10本ほど急いで観た結果 「水影」シーン登場作品は・・「東京物語」 「彼岸花」 「秋日和」 「お茶漬けの味」 「早春」 「戸田家の兄妹」 「小早川家の秋」・・しかし今回は観ていない作品もあるので まだ存在すると思われる ちなみに「水影」登場無し作品は「秋刀魚の味」 「晩春」 「東京暮色」(ただし見逃しがあった可能性もあり)

    ◎「東京物語」では「水影」が4回も登場 
    この映画のスタート画面は まず石灯籠一つだけの大写しであるが よく見ると その石灯籠の笠部分の裏側(地面を向いている面)に「水影」が映っているのだ! 「水影」はこの冒頭含めて計4回も登場で これは他の小津作品の中では登場は1~2回であるのに比べると抜群に多く いかに「水影」を重要視している作品かが分かるというもの
    この代表的シーンは冒頭のものではないが 右に映っているのが その石灯籠
    tokyo-story-r.jpg (2)

    ↓母親の葬儀後に会食する場面 右側の障子と提灯に「水影」が
    t-story-teri1 (2)

    ↓同じ会食した料亭の提灯を大写しして「水影」強調
    t-story-teri2 (2)

    ◎「水影」を映す意図は?
    そもそも「水影」現象が現れる条件は 海・湖・池・川・プール・つくばい・あるいは水たまり などの水の存在と無風の晴れた日中で陽の光の入射角と反射角の条件が揃えば現れるのだが これを天候要素に限ってみれば・・「水影」は明るく穏やかな状態の現われであり これを見ると我々の心も穏やかになるもので 小津監督は映画の中での場の雰囲気や登場人物の心理状態を表す一種のメタファーとして使っているのでしょう  この見方からすれば 小津作品の中でも最も暗い内容とされる「東京暮色」には「水影」が使われなかったのもうなづけるというもの!

    小津監督が30才のときに出版された谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」はたぶん読んでいるのではないかと思われるが 陰翳を大切にした結果として「水影」の明るさが生き また相互に強調し合う効果も意図しているのだろう また"谷崎が礼賛した和紙"を使った障子や提灯に
    「水影」を映したのでもあろう

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    この映画の冒頭画面で水影の映った石灯籠の"笠"を強調しているが この映画の主役の一人である笠智衆の苗字も"笠"であることは なにやら符合するような感じがする?

    今年2020年の1月18日~7月19日までニューヨークの「MUSEUM OF THE MOVING IMAGE」(映像博物館)で「エンヴィジョニング2001展」が開催されて スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」に登場したモノや資料パネルが多数展示されている 1968年の映画公開から半世紀を経た今も根強い人気があることの証だ
    space-o-2001

    ◎「airborne(エアボーン)」社のチェア「DJINN(ジン)」
    この「エンヴィジョニング2001展」での展示物の一つであるイス(イスともソファとも言えるモノ)は映画の中では宇宙ステーションの中のヒルトンホテルのロビーに多数置かれていたものだ
    djinn-chair (2)
    展示のイス
    映画の中のイス
    djinn-chair 2001.png (2)
    このイスはフランスの「airborne(エアボーン)」社(現在は消滅)製である 1969年(映画公開1年後)に日本エアボーン(株)が発行したカタログを私は所持しているが それには確かに同型のイスがのっている


    ※今回のブログの中で"ピンク系のイスの画像を多く掲載していますが その本当の色の表現としては 最初の"会場で展示されているイス"の色が最適と思われます(これも確かとは言えません それは皆様のパソコンのモニター画面やスマホ画面の色再現特性によって変わってしまうからです また以下の"私所有のカタログ写真"もカメラの特性によって ここでは"明るく派手なピンク"に写ってしまっています)
    eaborn-box (2) 
    厚ボール紙製ケースに入ったエアボーン社の豪華カタログ
    (36cm 36cm x 1cm)
    映画の中のイスと同型(カタログでの品番「DJINN 7001」)
    dijinn-blue (3)
    このイスは現在一般には「ジンチェア」と呼ばれている ところがこのエアボーン社のカタログによれば 同社はこれをイスともソファとも呼ばずに単に「DJINN LIVING(ジン リビング)」としてシリーズ化している ただし別に明らかにイスであるタイプがあり これは「DJINN DINING CHAIR(ジン ダイニング チェア)」と称している 双方には共通してジャージの布とウレタンフォームが使われている 

    このDJINNシリーズはフランス人デザイナーの
    オリヴィエ・ムルグのデザインである
    dijinn-series (2)
    「DJINN LIVING」シリーズ
    「DJINN DINING CHAIR」
    djinn-dining (2)

    ◎映画中のイスの色は「ピンク系」
    映画で使われたイスの色が”赤かピンクか”の論争が長いあいだあったらしいが 2018年にロンドン南部の個人宅で本物の当該品が発見されて”ピンクである”ことで決着 ところで私が1969年に入手したエアボーン社のカタログにはDJINNシリーズの商品には使っているジャージ生地はピンクとブルーの2種があり ピンクのほうは映画用イスにも使っているものと同じに見えることから 早くからこのカタログを多くの人が見ていたら論争も起こらなかったのではないだろうか 以上の文中では「ピンク」としているが正確には「やや赤みがかったマゼンタ(濃いピンク)」
    djinn-pink (2)
    ↑「DJINN LIVING」シリーズ「DJINN 7111」(ピンク)

    ◎万事にこだわるキューブリック監督が選んだモノたち
    原作者であるSF作家アーサーCクラークと共同で脚本を作り 構想から4年かけてこの映画を完成させた 使用した音楽は有名作曲家に作曲依頼したりもしたが 古今東西の既存曲も聴き尽くして選曲もした結果が 映画冒頭の「ツアラトゥーストラはかく語りき」(リヒャルト・シュトラウス作曲)を そして“地球と月の中間点に浮かぶ宇宙ステーション”が人口重力を作るために1分間に1回転しながら浮かぶシーンでは「美しき青きドナウ」(ヨハン・シュトラウス作曲)を採用した
    kyubric-cleark (2)
    スタンリー・キューブリック(左)とアーサーCクラーク
    kubrick-in-studio
    撮影現場のスタンリー・キューブリック
    また“時空を超えるシーン(大量の光るすじが放射状に出現する)”作りだけに4か月も費やした

    ◎実在の企業名が多数登場
    映画の真実味を出す意味と製作費捻出のためもあってか?実在の企業名が多数見られた・・宇宙機の機体には「パン・アメリカン航空」(1991年に破産・消滅)の文字とマーク / 宇宙ステーション内部には「AT&T」や「ヒルトン(ホテル)」の表示があるブース・出店 / 「IBM」のマークも所どころに見られる(当初は登場するコンピュータすべてにIBMマークが付けられる予定だったが宇宙船内の”意思を持ったコンピュータHAL9000”が人間に反抗し 殺人と殺人未遂を起こす筋書きであることに気づいたIBM社は撤退したものの 撮影現場が徹底せずに一部に同社のマークが残されたまま撮影されている) その他 表面に出ない一流ブランド品も多い・・「HAMILTON」のリストウォッチ / 「アルネ・ヤコブセン」のカトラリー / 「ハーディ・エイミス」がデザインした未来志向の服など・・そして「airborne(エアボーン)」社のチェア
    panam-whole (2)
    宇宙機の機体にはPAN AMERICANの文字とマーク
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    以上文中にはキューブリックについて非常に詳しい「キューブリック・ブログ」http://kubrick.blog.jp/archives/52345526.html
    より引用した部分があります
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    今年2月24日に発信した私のブログ「陸上競技トラックがスーパー楕円なら好記録出る?!」の中でスーパー楕円採用の提案をしていたところ 別の提案が現れた!
    ◎200メートル走で0.04秒短縮できる案
    今年2020年6月4日朝日新聞に こんな見出しの記事が掲載された 「ボルトを超えられる?理想のトラック・・仏数学者が考案『200メートルの記録0.04秒短縮』」

    それによると仏国立科学研究センター研究部長のアマディン・アフタリオンさんらは 一周400メートルのトラックを人間が走る際の”カーブの走り方” に注目して 遠心力 地面からの反発力などの影響を計算して スピードを殺さずに 最も効率よく加速できる方程式を導き出してコンピュータで最適解を得たという 

    その結果は・・トラックの直線部分が55.52メートル 半径44.88メートルの90度カーブを2.52メートルの短い直線でつなぐ形となった 

    ところが世界陸連の競技技術規則では”トラックは2本の直線と半径が等しい2本のカーブで構成する ただし最も外側のレーンのカーブの半径が40メートル以下でなければならない”としているので 国際的な標準トラックは84.39メートルの直線と半径36.5メートルの180度カーブから成るものが多い 

    したがって今般のアマディン・アフタリオンさんらの発表案も以前に私が提案したスーパー楕円案の双方とも規定外となることにはなる しかしそれはそれとして この2案のどちらの方が好結果を生むのか非常に気になるところ どなたか比較計算してください!
    new-truck(2)
    赤線が仏国立科学研究センター案(朝日新聞記事より引用)
    スーパー楕円
    super-oval (2)
    ◎スーパー楕円のおさらい
    super-oval-sikiこの式でnが2.5のときスーパー楕円(nが2のとき楕円 a=bのとき円  aはx方向の長さ bはy方向の長さ) 
    (式に関してはhttps://tamanobi.hatenablog.com/entry/2015/07/18/060345 より引用)

    ◎ピートハイン氏はスタジアムの形にもスーパー楕円を採用

    氏はスーパー楕円の発見者でありその応用実際例がいくつかあるが その中にメキシコオリンピックにも使われたサッカー専用の「アステカスタジアム」があり その外観の外周をスーパー楕円の形状にした設計を行った
    asteca-stadium (2)
    アステカスタジアム (写真は分田 真氏のHP
    www.echna.ne.jp/~bunden/suprelips.html より引用)

    ◎スーパー楕円のスピーカーのオーディオセット登場

    (株)ラシュラン(福岡市)は2009年から2013年にかけて 当時のオーディオ総合メーカーであったオンキョーと共同開発して”スーパー楕円形状のスピーカー”を採用した一体型オーディオシステムを限定生産販売した そのスピーカーの特長は”音楽に含まれる癒し特性「1/fゆらぎ」を忠実に再生する”のだそうだ
    audio-name
    super-oval-speaker

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